【前庭系が過剰になっているかどうかの見分け方と考え方】めまい・嘔吐・眼振で立てない・視覚に頼り過ぎると過剰反応が生じる・療法士SMさんのご質問No1

今日は療法士のSMさんから寄せられたご質問にお答えします。

【SMさんからのご質問】

固有受容感覚、前庭感覚、視覚の大きく3つのバランス(どこが原因で動作に影響しているか)を考えることが臨床でも多いのですが、前庭感覚が過敏になってる場合はどのような反応がありますか?
高齢者もあらゆる疾患をお持ちの方も固有受容感覚が鈍くなり視覚に頼りがちなケースは多く見受けられるのですが、前庭が過剰なケースの見分け方というか、みるポイントを教えて貰いたいです。

前庭系(前庭感覚)

『前庭系(前庭感覚)』は耳の奥にある三半規管を通して重力や体の傾き、スピード、回転などを感知するシステムです。姿勢調整や眼球運動にも関わっており、一般的には平衡感覚やバランス感覚と呼ばれます。

前庭系が過剰に働いている時、当事者の方は「怖くて動けない」状態になります。
めまい・嘔吐・眼振・よだれが止まらないといった症状を呈する事もあります。

脳卒中片麻痺者を対象とした臨床現場においては、前庭感覚は正常に動いているけれども、先回りして動き過ぎてしまう…という言い方ができると思います。

片麻痺のせいで麻痺側に荷重できないので、頭が前に倒れるのを防ぐために、頸部(首)に力を入れ、突き上げるかのごとく立ち上がるというのは良く見かけるかもしれません。

SMさんが質問されたように、『固有受容覚』が鈍くなっている事も往々にしてあります。
固有受容感覚とは、筋肉や関節を通して、体の動きや位置を感じる感覚です。
筋肉や関節などの受容器から発信される感覚で、体の動きや位置、力の入れ具合などを把握します。固有受容覚が捉えにくいと、力加減が難しくなったり、身体の動かし方がぎこちなくなったりしてしまいます。

このように、脳卒中などで脳に障害を負うと、前庭系や固有受容覚が正常に働きにくくなってしまいます。

固有受容覚が乏しい

リハビリでの立ち上がりや起き上がり動作で「視覚」に頼る方がいます。
たとえ両方の足が目で見えていたとしても、固有受容覚が乏しく、片方の足の感覚が無いので両足に荷重できず、バランスを崩すために前提感覚が過敏になる傾向があります。

詳しいメカニズムについては、三輪書店から発売されている「<理学療法MOOK> 17 理学療法技術の再検証 科学的技術の確立に向けて」に記載されていますので、療法士の方は手に取って見てみて下さい。

また、ギブソンの「生態学的視覚論」もアフォーダンスの観点から知っておくと非常に有用です。

今回の動画では、日常動作における3つの基本姿勢(臥位・座位・立位)において、前庭感覚・体性感覚・視覚が各々どう作用しているか。
これらの感覚の比重がアンバランスになった結果、どういう問題が生じるのか解説しています。

上記の3つの感覚を理解していないがために、麻痺側を使う練習が効果的にできていない療法士の方がおられるかもしれません。

下肢の力が弱いのではなく、小脳や筋が先回りして、下肢の力を出すための荷重や筋活動ができていない状態で、立ち座りや歩行を誘導しようとすると、当事者はお尻が後ろに引けて倒れそうになってしまいます。
「バランスを上手に取って下さい」とセラピストが伝えた所で、当事者の方は平衡感覚が掴めなくて困ってしまいます。

こうした知識は「下肢装具は何のために使うのか」という目的と手段の話にも通じるような気がしています。

今回の動画は、療法士の方にとっても難しい内容になったかもしれません。
色々な知識が必要ですし、書籍や文献にも目を通しておかないと把握でなきないテーマが含まれていたと思います。

全体的に総花的・散発的な解説になってしまいましたが、「前庭系が過剰なケース」の見分け方と考え方、及び、対応方法のヒントを掴み取って頂ければ幸いです。

動画内容・チャプター

2:57 SMさんからのご質問
3:32 前庭が過剰に働いている時は動けない(恐怖感・めまい・嘔吐・眼振・よだれ)
4:27 立ち上がりの時に前庭が過剰に働く
4:57 確認方法
6:25 視覚に頼って動くケース
7:00 感覚の比重・重みづけ
7:38 日常動作の姿勢3つ(臥位・座位・立位)
8:34 臥位:体性感覚優位
9:21 痙縮があると横になっても休めない
10:03 脳卒中発症初期も寝られない
10:46 臥位ですら辛い・起き上がりは更に大変
11:12 固有受容感覚・体性感覚(自分の身体が分からなくなっている)
12:19 座位:全部の感覚がブレンド
14:22 体を起こしておけない・足の感覚が乏しく荷重できない
15:16 3つの感覚→重みづけのシフト
16:22 視覚に頼り過ぎると過剰反応が生じる
16:34 ギブソンの生態学的視覚論
18:50 麻痺側を使う練習ができていない
19:22 前庭感覚:平衡感覚やバランス感覚を取る
19:43 小脳が先回りして働く必要がある
21:34 下肢の力が弱いのではなく、筋が先回りして動かない→へっぴり腰
22:27 長下肢装具:目的と手段
23:19 姿勢保持し動けるまでをセットで考える