バランスとは何か?

脳外傷の方と網膜血管症(RVCL)の方

2月16日に山口県山口市にて出版記念セミナーを開催して来ましたので、概要をお伝えしつつ、「作業療法の使い方」についてお話をしようと思います。

現地のセミナーでお手伝い頂いた方と講義の症例で取り上げた方は、脳外傷の方と網膜血管症(RVCL)の方でした。脳卒中ではないですが、脳由来の身体障害や様々な困難を抱えておられるお二人です。

セミナーのメインテーマ

今回のセミナーで、僕が思い描いていたメインテーマは「認知機能」です。認知機能を評価をし、日常生活動作の中のどういった場面で難しさが出て来るのかを見極め、それに対してリハビリ介入していくという一連の流れを参加者の方に見て頂きたいなと考えていました。

脳外傷の方

・発病19歳→現在40代後半
・工場現場で高所墜落→頭部外傷
・日常生活で転倒が多い→服を着用する時など
・移動時に転倒しない能力の獲得
・バランスが悪い→バランスの練習はNG

立位や歩行、動作をしている最中に不安定さがあり、衣類に頭を通す時に視覚がさえぎられたり、別の事に注意を向けていると転倒してしまうということが分かりました。

バランスが悪いのにバランスの練習はできない

この方の場合、一般的には「バランスが悪い」と評価されます。

こういった状況で「バランスが悪いのだから、バランスの練習をしましょう」と短絡的に考えるのは非常に問題があると言えます。

バランスの練習ができるためには、既にある程度のバランスが取れていることが前提です。バランス能力を持っている人が、更にそれを向上するという意味でバランス練習をするなら分かりますが、バランスが悪いのにバランス練習はできません。

先ずは、バランスが取れる体を獲得する必要があります。

バランスとは何か?

対象の方のバランスが悪いことは分かった。
何を問題として捉え、評価するかを考えるのに「バランスとは何か」を知っておく必要があります。

バランスが取れるためには、身体、感覚、認知がどういう状況であるべきなのかを押さえておく。
これは基本的知識として持っておかなくてはいけないことです。

また、この方はなぜバランス崩してしまうのか、僕たちは適切に観察・評価しなくてはいけません。

何が問題で、何がうまく達成できないから転倒するのか…という評価と解釈ができる技術を身に付けるのが、我々セラピストに課せられた義務でもあるわけです。

色々な要素

対象者の年齢や身体状況にもよりますが、バランスを取るためには、色々な要素を考える必要がある事は皆さんも認識されていると思います。

・アライメントがきちんと取れている
・関節や筋肉を動かすための筋力や筋肉の長さが保たれている
・姿勢制御が維持できている
・前庭感覚が働いている
・感覚フィードバックが得られる
・固有需要感覚が機能しているか
これらを「統合」してバランスを考えていく必要があります。

認知機能

筋肉や関節、中枢神経による姿勢制御以外に、認知機能にも気を配らないといけません。

脳外傷や網膜血管症では認知機能も低下する傾向がありますが、認知機能を高めるために、僕たち作業療法士は一体何ができるのでしょうか?

作業療法の使い方

ここで今回のキーとなる「作業療法の本質・作業療法の使い方」が登場します。

『作業療法という手段を使って、脳の中で起こっていることを整理整頓する』というのが、今回のセミナーで僕が考えたプロトコルです。

作業療法として動作の練習をするのでは決してありません。作業活動そのものを使って何か動作を遂行するのではなく、作業を介して頭の中を整理することで、今使えている能力を更に良い方向へと導くことを実現したいわけです。

実際の山口セミナーではフルーチェを作り、トランプで神経衰弱をしました。なぜフルーチェとトランプだったのか…その理由については、セミナーの配信動画で詳しく説明したいと思います。

動画内容・チャプター

2:42 脳外傷と網膜血管症(RVCL)
3:43 認知機能の評価・日常生活動作の困難性の把握
4:06 作業療法を導入した理由
6:23 転倒を繰り返す
8:12 バランスが悪いのにバランス練習はできない
9:36 バランスとは何か?
11:02 なぜバランスを崩すのかを評価する
13:24 アラインメントが取れるために
14:31 姿勢制御
15:33 認知機能
16:26 認知機能を高める作業
18:11 作業療法で動作練習をするのはNG