今回は「立位から動き出す」、移動動作について掘り下げていきます。歩行練習につながる実践的な内容です。

まとめ・伝えたい事

要点をまとめると、手が離せないのは筋力の問題だけではなく、“自動的な重心移動”を引き出すための準備が必要“という事です。
「先行する感覚」がカギとなります。

ただ「立てない・歩けない=筋力不足」と考えるのではなく、
・筋活動パターンの乱れ
・感覚入力の不十分さ
・先行随伴性姿勢制御の機能低下
・アライメントの崩れ
・センターコントロールの未確立
・認知的問題(注意・遂行機能障害)

上記を多面的に評価し、脳卒中片麻痺の当事者の方が"自然と動き出せる環境と条件を整える事"が不可欠です。

現在のリハビリ現場と「長下肢装具」の課題

昨今のリハ現場では、回復期リハビリテーションのプロトコルに従い、麻痺足に長下肢装具を履いて荷重する練習をするのが主流です。

エビデンスとして筋力向上の効果は確認されていますが、それを“うまく使いこなせているか”が問題だと捉えています。
筋力はあっても、動作につながっていない例が多く見られると思っています。

手すりから手が離せない理由

「手すりが離せない」「引っ張って立ち上がる」という患者さん、非常に多いですよね。力で引き上げて、何とか立っているけれど、手が離せない…

この原因は、単に筋力の不足ではなく、麻痺足に荷重が適切にできていないから。
麻痺側への荷重が不十分なことが多いのです。

筋活動パターンを理解する

安定して立つためには、筋力だけでなく、正しい筋活動の“パターン”が必要です。

たとえば、ハムストリングスや膝をロックするメカニズム、足底からの床反力に関わる下腿三頭筋と前脛骨筋のバランスなど。これらがうまく働いて初めて、立位での安定が得られます。

重心移動は練習量ではなく「自動化」がカギ

繰り返しの練習だけでは、「手が離せない」「足が出せない」「一歩が踏み出せない」といった問題は解決しません。自動的な重心移動が起こっていないからです。

身体が“動く準備”をしてくれない。これを「先行随伴性姿勢制御(APAs)」と呼びます。
実際の動作前に、体幹などが無意識に機能・安定化することで、初めて安全な一歩が踏み出せるのです。

筋活動にプラスして、「あ、自分の力で支えたな!」という感覚が必要です。

動作の中身を細分化し、今どこの筋活動によるどういう感覚が目の前の人に伝わらないから手が離せないんだろうか、一歩踏み出すための力が出せないんだろうか、といった事を考えるワケですが、それは後からのフィードバックではダメなんです。

先行してそこが働くように、こちらが前持って準備してあげないといけません。

センターコントロールの重要性

適切な重心移動には、麻痺側の脚が伸びているだけでは不十分です。
骨盤・肋骨・肩甲骨が垂直に積み重なり、そのバランスを妨げる要素がないことが重要。

これを「センターコントロール」と呼び、中心軸の安定性こそが“手が自然に離れる”ための鍵になります。

アライメントと支える筋出力

立位では身体の重心が「支持基底面内」に収まる必要があります。アライメントが整っているだけでなく、支える筋出力が加わることが本当の意味での安定です。

「手を離してください」ではなく、「どこを支えれば自然と手が離れるか?」という視点で評価することが重要です。

見落としがちな肩甲帯や体幹

意外と見落とされがちなのが、肩甲帯や体幹の影響です。

実際には、下肢よりも肩甲骨周囲の安定が不十分で、手が離せないケースが多いのです。肩甲骨をほんの少しサポートしてあげるだけで、患者さんが自信を持って一歩を踏み出せることもあります。

一歩踏み出そうとした時に、先回りして肩甲骨をちょっとだけ持つと脚が出せた、という場面が臨床では何度も見かけます。

認知的背景にも目を向ける

一見普通に歩いている方でも、「足が重たい」「前回教えた運動をしていない」と繰り返すことがあります。

これは、やる気の問題ではなく、「遂行機能障害」や「注意障害」などの高次機能障害が背景にある可能性もあります。

「忘れてしまう、手順が思い出せない」という方には、テクニックよりもまず、状況整理や認知機能に対する理解と支援が必要です。

まとめとポイント

今日のポイントは、「手を無理やり離させるのではなく、自然と離せるようにサポートする」ことにあります。
認知機能も含めた当事者の方にとっての問題箇所を見極め、必要な介入・サポートを前もって準備する。

それが、療法士として持つべきスキルです。

動画内容・チャプター

0:33 立位のリハビリと現状課題
1:44 「手が離せない」原因と実態
2:40 筋活動パターンの重要性
3:34 繰り返し練習では解決しない
4:03 先行随伴性姿勢制御(APAs)
5:04 動く前に支える筋活動が起こることが必須
5:45 センターコントロールとは?
6:50 評価ポイント:どこを支えたら手を離してくれるか
7:42 立ち上がりと肩甲骨の関係
8:32 先行して働くように前持って準備する
8:47 テクニックより先に知識整理を
9:22 遂行機能障害の要因も
11:01 高次脳機能障害は改めて
12:09 自動的な重心移動が生じる筋活動をマスターする