今日から脳卒中片麻痺の方に対する「歩行」について解説していきますが、前段階として「ムンテラ」を取り上げます。

脳卒中で後遺症が残った方に対し、なぜ多くの医者は「一生寝たきり・歩けない・ずっと車椅」と言ってしまうのでしょうか?
いつものように本題に入る前の話が長いですが、山田の見解を述べたいと思います。

基礎運動学の教科書と歩行周期

基礎運動学の教科書を引っ張りだしてきて、改めて「歩行とは何か?」を自分で考えてみました。

・基礎運動学
・モーターコントロール
・ペリーの歩行分析

通常の教科書では、大抵の場合「歩行周期」の解説からスタートします。

要は、「歩行とはどういう形をしてるのか」というパターンにフォーカスしています。
『歩行の型』を知る事が重要視されているのですね。

一方で、脳卒中片麻痺の方にリハビリを提供する僕たちが、臨床的な思考を展開するにあたっては、違う角度から捉える事も必要と思います。

日常生活動作がうまく遂行できない方が目の前にいらっしゃいる時にどう対処するのか。

上腕二頭筋が曲げられず、末端の随意性は少し残っているものの、お箸を使って口にご飯を運ぶことができない場合、リハビリでは上腕二頭筋の練習をするという流れになります。

歩行も同じことで、一定の歩行パターンが決まっている中で、それが崩れると何らかの障害があるという事になります。

療法士の皆さんは、正常歩行のパターンは知っている。
異常歩行のパターンも知っている。

脳卒中片麻痺で歩けない方を見た時には、大殿筋に問題があるよね、という感じで問題を特定したり、方程式的な知識に照らし合わせて状況を理解したりしていると思います。

歩くとはどういう事か?

ですが、ちょっと待ってください。

「歩行周期」、つまり歩行の形を知っていることは大切ですが、根源的な意味で「歩く」とはどういうことか、考えたことはあるでしょうか?

議論を深めるに当たり、「グレートジャーニー」を引き合いに出したいと思います。

「グレートジャーニー」とは、主にアフリカで誕生した現生人類(ホモ・サピエンス)が、約10万年前にアフリカを出て世界中に拡散していった約5万キロに及ぶ壮大な旅のことです。それを探検家・関野吉晴が逆ルートから辿った旅としても有名です。

ホモサピエンスがアフリカから大陸を横断するのに取った手段は「歩くこと」です。

僕が考えるに、歩行で重要なのは、「かかとから着いてつま先に…」といった歩行パターンではなく、「効率性」だと思っています。

片麻痺者・どういう条件が整えば歩けるのか

先ほど、多くの専門的な教科書では、「歩行周期」から解説が始まっていると述べました。

僕たちは脳卒中片麻痺の方に対してリハビリを提供していますが、「歩行周期」は歩ける能力を持っている人向け…という前提になってしまいます。

このため「歩行を正常に近づけるにはどうするか」、という議論から始まりがちですが、私たちが向き合っているのは、歩けなくなった、立つことも困難な方々です。

だからこそ、「歩くとは何か」「どういう条件が整えば歩けるのか」を理解することが重要だと僕は捉えています。

医師は「歩行」を知らない

ムンテラで実際以上に悲観的な事を伝える医師は、恐らくこういう思考を持っていないのだと推察されます。

脳の画像診断などから、麻痺や身体の状態を見て、一生歩けませんと言ってしまうのだと思います。

こうした背景にあるのは、医師の多くは「歩行」のことを知らないという事実です。

中には歩行を研究している著名な先生もいらっしゃいますが、多くのドクターは歩行に関しては専門外です。歩行の回復プロセスに関する知識は無いに等しいでしょう。

自分たちの研究範囲外なので、どうしても画像診断や一般的な所見から、最悪の事態を想定したネガティブな内容を伝えてしまうのです。

僕たち療法士はそこの部分を補い、可能性を見出す役割を担っていると考えます。

認知・環境の影響や個人差も大きい

脳卒中片麻痺の方では、人によっては、実際に歩けていても「歩けない」と感じることもあれば、重度の麻痺があっても「歩けている」と思う人もいます。

主観と客観がずれることが、臨床で対峙する難しさです。

歩行能力は身体機能だけでなく、環境(人混みや天候)や認知的処理の影響を強く受けます。実際には歩ける人でも、外出を躊躇することもあるでしょう。

「歩けるようになる」の基準は人によって異なりますが、僕個人の見解としては、「8割は歩けるようになる」と考えています。

それを達成するには適切な介入と個別性に応じたプログラムが必要です。

と言うワケで、次回からは歩行というテーマに更に入り込んで講義していきたいと思います。

動画内容・チャプター

1:01 歩行をどう理解すべきか
1:17 ムンテラ:医師はなぜ歩けないと言うのか?
2:35 歩行に関する書籍
3:42 一般的な教科書:歩行周期から
5:42 片麻痺者に対するパターン認識
7:06 歩くとはどういう事か?
7:44 グレートジャーニー・人類学者 関野吉晴
9:33 歩行で最も重要なのは効率性
11:21 なぜヒトだけが歩ける?
13:05 医師は「歩行」を知らない
17:08 重度な麻痺でも一定レベルで歩けるようになる
17:57 歩けない?認知・環境の影響や個人差がある
21:17 どういう条件が揃ったら歩行が達成できるのか
21:47 脳卒中片麻痺者でも8割は歩けるようになるハズ
22:08 個別のリハで対応する必要がある