脳卒中片麻痺の方を担当する新卒の療法士向けに、立ち上がり動作・トランスファーを達成するため、「立ち上がる」という動作の中で各関節がどう影響しているのか」というテーマでお送りしています。
「新卒療法士向け・ROM講座 第3回」は『脊柱の可動性』です。

車椅からベッドに移る際の視点

2025年2月16日に山口県山口市のリハビリ施設「ベッタ」で開催したセミナーの動画を4月13日(日)に公開しています。

動画冒頭で、車椅子からベッドに移る場面の中でどういう視点で患者さんの事を見ているかを検討していますので、宜しければこちらの動画も参照なさってみてください。

【講義2/4】高齢片麻痺者の特徴と介入方法・2025年2月16日 山口県山口市 ご協力:まちのリハビリ室 ベッタ
https://www.youtube.com/watch?v=yTrvQ5RL7e0

車椅子で座っているのは一体どういう状況?

「トランスファーでの立ち上がり」で先ず考えなくてはいけない事は、「車椅子で座っている状況とは一体どういう状態なのか」という事です。

前回の動画では、車椅子から立ち上がる際、「骨盤が動かないから股関節と足関節の可動性を活かせない」という事を伝えました。

なぜ股関節が動かせないのか?
その原因は「脊柱の可動性」にあります。

車椅子に座っている人は後方荷重している

車椅子のバックレストは多くの場合、90度よりも後ろに傾いています。
座面シートは水平、または、若干前方に角度が上がっています。

こうした構造のお陰で、車椅子に座っている人は後ろの方に体重が過重ができるようになっています。そうした意味で、車椅子の方の安全は確保されています。

しかし、車椅子の方がこの状況から動くことを想定した場合、この構造は結構不利になります。

1つの要因として、車椅子の座面が関係しています。
座面は布でできているので硬くありません。

一見すると通常の椅子に座っているかの如く、対象者が座っているという風に勘違いをしますが、車椅子のシートに座っているというのは、バランスボールの上に座ってるのと同じようにふわふわ不安定なのです。

脊柱が動かないので骨盤が起こせない

バランスボールのような非常に不安定な状況で前に身体を移すためには、背骨が動かないと体重移動できません。

ムリヤリ股関節を屈曲すると前に移動できますが、車椅子のバックレストも布地でできているのでなかなか伸展はしません。
脊柱の軽度屈極から股関節の屈曲を生じさせるのは難しいです。

車椅子から身体を起こすためには、いっぺん反り返るような姿勢に変える必要がありますが、臀部にバランスクッションがあると、殿筋の感覚は失っているのも同然になります。

硬いところに座っていればこのお尻が運動の基準になるので、身体を後ろに傾けて腹筋を使うことができますが、(バランスクッションに乗っているのと同じ)車椅子の方は後ろに傾くことができず、脚が浮いてしまいます。

運動の軸がはっきりしない・脊柱が動かせないので骨盤が起こせない。
これが、車椅子で起こってることです。

重心が変化しないので手で引っぱって身体を起こす

身体を起こすには「重心の変化」が必要です。

車椅子の方が、後方重心になっている状態から前に移動するためには、頭の重さであれ、腹筋の力で屈曲するのであれ、骨盤を起こすであれ、必ず“脊柱”が動いてくれないと変化が生じません

脊柱による重心の変化が起こせない時、片麻痺の方が取るのは「何かに掴まってムリヤリ手で引っ張って身体を起こす」という行動です。

「手で引っ張るという手段を取らないと、身体が起きませんというシグナルを出している」という事です。

当事者の方が車椅子に座っている状態から動くというのは、とても大変な事だというのは療法士として理解しておく必要があります。

片麻痺の方は非対称に車椅子に座っている(背骨がズレている)

脳卒中片麻痺の方は身体をよじるように、非対象に車椅子に座っている方が多いです。

非対称になっているという事は、背骨がズレているという事です。

本来は、頭と骨盤が直線上に位置するはずなのに、頭と骨盤の位置がずれているように見えるという事は、背骨がずれている証です。

背骨の位置がずれているという事は、前後には動けない事を意味します。

脊柱の前後傾の動きは、股関節や骨盤の上の下部腰椎だけでなく、胸椎の動きも伴います。

この時、背骨の位置がずれていたら真っすぐには動かないので、背骨は「ひと塊」になってしまいます。
すると、どうしたって前に移動できないので、手で引っ張るっていう手段を使わざるを得なくなります。

脚を突っぱって起き上がる

脳卒中片麻痺の方が身体を超す際に、手で引っ張って身体を起こそうとするわけですが、これも容易な事ではありません。

身体が起こせないので、手で引っ張りながら「足を突っ張る」という手段も使いがちです。

療法士がこれを見て「突っ張らないで立って下さい」というのは無理難題です。

当事者の方が手で掴まって立とうとするには、脚を突っ張る以外に方法はありません。

まとめ

脳卒中片麻痺の方が、車椅子から上手く立ち上がれない理由のひとつとして、足関節や骨盤屈曲のレンジが狭いという事を前回の動画で説明しました。

今回はそれ以外に、車椅子に座っていると背骨が動かないから重心の変化が生じにくく、身体を起こすのが難しいという事を解説しました。

加えて、片麻痺の方は非対称な姿勢になりがちなので、背骨の可動性が更に低くなってしまいます。

これを新人セラピストの方は押さえておいて下さい。

では一体どういう工夫が出来るのか?

こういう状況に対して、一体どういう解決策が取れるのか。

次回は、立ち上がりの関節可動域(ROM)に基づいて考察し、解決への流れを組み立ててみようと思います。モデルさんをお願いして解説する予定ですので、宜しければご覧下さい。

動画内容・チャプター

0:42 脊柱の可動性
1:20 車椅からベッドに移る際の視点
1:44 車椅子で座っているのは一体どういう状況?
2:40 車椅子に座っている人は後方荷重している状態
3:34 バランスボールの上に座っているのと同じ状況
5:04 脊柱の軽度屈極から股関節の屈極は起きない
6:32 身体を起こす=重心の変化が必要
6:56 脊柱が動いてくれないと変化が起こせない→引っ張る力で起こす
7:38 片麻痺の方が車椅子から動くのは大変
8:13 片麻痺の方は非対称に車椅子に座っている(背骨がズレている)
9:13 脚を突っ張って身体を起こしている
9:40 足関節・股関節レンジの狭さ以外にも背骨に原因がある
10:27 次回:関節の可動域から組み立てる