前回発信した「【新卒療法士向け ROM講座⑤】実践編」で、70代男性 左被殻出血・右肩麻痺に対する介入として「肩甲骨をサポートの場面」をご覧頂きました。

山田が麻痺側の腋窩に頭入れて肩甲骨を支えることで、非麻痺手がてすりから離せ、麻痺側下肢への荷重がスムーズに行き、立ち上がり動作がラクに行えるようになりました。

今回の動画では、『 肋骨の稼働性が乏しいと伸展反応が起こらず、下肢に力を入れても立てない』という主旨で、その原因が「肩甲骨にある」というのを解説します。

伸展反応では肋骨が開く必要がある

歩行で脚が前に出る時、通常は身体の重さが脚の上にすっと乗ります。
体重が片方の脚に乗せておけるので、もう片方の脚が後ろに残しておけるのです。

身体の重さが脚の上にすっと乗った時に、いわゆる「伸展反応」が起きます。

「伸展反応」が生じるには、背骨の他に、肋骨もきちんと開く必要があります。

背骨の脇に付いているのが肋骨で、肋骨が回転運動を起こし、しっかりと肋間が開かないと腹部は潰れてしまいます。

片麻痺者はバランスが崩れている

通常であれば背骨が真っすぐになり、肋骨が開く事で伸展反応が生じますが、脳卒中片麻痺者の方は肋骨が開かないことで、姿勢制御が困難な状態になっています。

健常者の我々でもイメージできるよう、試しに下記をやってみて下さい。

前に脚を一歩出して、その脚に体重を乗せる時に、肋骨にぐっと力を入れる。
そのまま、前に進んで行こうとすると、バランスが取りづらい事に気づくと思います。

片麻痺の方は、この状態が24時間365日生じています。
こうした状態では、バランスはどうしても崩れてしまいます。

肋間が開かない原因は肩甲骨にあり

肋骨(肋間)が開かない原因は肩甲骨にあります。

急性期・回復期病院での6月を経過して退院された方の中には、肋間筋や前鋸筋、広背筋など、肩甲骨と肋骨に繋がっている筋肉全般が硬くなっている事もあります。

元から、肋間筋の可動性が低い方もおられます。

そういう場合は、介入で徒手的に肋間を開くアプローチを取っています。

肩甲骨が肋骨の稼働性を阻害している場合、解決のためには「肩甲骨が具体的にどう肋骨の稼働を低めているか」を考えなくてはいけません。

大胸筋・小胸筋が硬いと肩甲骨が肋骨の上に覆いかぶさる恰好になる

原因①:大胸筋・小胸筋が硬いと肩回りが詰まる

上腕骨に付いている大胸筋・小胸筋が硬いと肩甲骨が肋骨の上に覆いかぶさる形になってしまいます。

この時点で、既に肋骨の可動性は失われてしまいます。

どうしてこういう現象が生じるのかは、有料版のセミナー動画で解説しています。

原因②:棘上筋や僧帽筋上部線維が硬いと上肢は外転する

上腕骨は棘上筋(きょくじょうきん)によって引きつけられています。

棘上筋や僧帽筋など、肩から首回りについている筋肉が硬くなると、肩甲骨が肋骨の上に被さるようになり、首元が詰まって、前傾したような恰好になります。

片麻痺者の方がこういう状況になると、違和感を感じ、姿勢も良くないので、意図的に首や肩を持ち上げたくなります。その時、首の上側の筋肉が代償的に働きます。

このように、棘上筋や僧帽筋上部線維が硬いと上肢は外転します。

実際には腕の随意性は乏しく、低緊張なのでぶらんと垂れ下がっているのですが、棘上筋や僧帽筋上部線維の硬さによって、上肢は外転していると理解できます。

対処法

対処法①:上肢を脇から軽く持ち上げて外転から下がっても大丈夫と教える

上肢が外転して、下に降りない状況を理解して上で、「腕を下ろして大丈夫ですよ」というのを脇から誘導してあげます。

脇から肩甲骨の重さを誘導し、肩甲骨の稼働性を出してあげることで、挙上、下制、内転、外転、上方回旋、下方回旋の6つの方向に可動性を出してあげるのです。

対処法②:菱形筋や僧帽筋中部繊維、肩甲下筋などもマッサージ

菱形筋や僧帽筋中部繊維、肩甲下筋などもゴリゴリマッサージし、肩甲骨の稼働性を引き出すと、肩甲骨が原因によって稼働性が乏しくなっている肋骨は動きやすくなります。

片麻痺の方が、荷重した時に伸展反応が起こりやすくなります。

下肢ではなく上肢の問題

こうして考えてみると、脳卒中片麻痺者の立ち上がりにおける「伸展反応」は、麻痺側の脚の問題というよりは、肩甲骨や肋骨が然るべき働きをしないので身体が起こせない、と理解することができると思います。

マヒ足はちゃんと支える力を有しているにも関わらず、上に乗っかってくる肩甲骨や肋骨が反応しないから立てないのだとしたら、「肩甲骨の稼働性」を疑ってみるのは重要でしょう。

肋骨の稼働性が乏しいがゆえに伸展反応が起こらず、下肢に力を入れても立てない、というのは臨床でもよく見られる現象です。

介入によって、肩甲骨の稼働性を引き出し、肩甲骨や肋骨がきちんと動くようになったかを確認してから、立ち上がりの練習へと移行して下さい。

新卒療法士の方であっても「ROM:関節可動域」についてこれだけの知識を持っていれば、臨床で活かせる場面が沢山あります。

両国 技術セミナー

今回ご紹介したような、臨床で即座に実践できる「技術講座」を両国のスタジオで開催する予定です。

今年の8-9月と11-12月に予定しており、遠方の方も参加できるよう、オンラインでのライブ配信も検討しています。

詳細が決まり次第告知致しますので、ご興味のある方は是非チェックしてみて下さいね。

動画内容・チャプター

0:12 前回動画:トランスファー・立ち上がりを阻害する肩甲骨
0:44 肩甲骨の可動性が大事な理由
1:22 伸展反応には背骨以外に肋骨が開かないとだめ
1:59 片麻痺者者はバランスが崩れている
2:56 肋間が開かない原因は肩甲骨
3:53 肩甲骨の稼働性を広げ肋骨を開くには何をすべきか
(甲骨がどう肋骨の稼働性を低めているかを考える)
5:13 大胸筋・小胸筋が硬いと肩甲骨が肋骨の上に覆いかぶさる恰好になる
6:58 棘上筋や僧帽筋上部線維が硬い
8:02 僧帽筋上部線維が硬いと上肢は外転する
8:31 上肢を脇から軽く持ち上げて外転から下がっても大丈夫と教える
9:29 菱形筋や僧帽筋中部繊維、肩甲下筋をゴリゴリマッサージ
9:54 肩甲骨によって稼働性が乏しくなっている肋骨は動きやすくなる
10:31 肩甲骨動くようになったか確認する
11:06 肋骨の稼働性が乏しいと伸展反応が起こらず下肢に力を入れても立てない
11:51 技術講座@両国 8-9月・11-12月