今日の講義テーマは「移動動作の本質とは?移動動作って一体何なんだろう」です。

前回動画「⑩立位から一歩踏み出す」に続く内容で、概念的な内容が中心ですが、重要なステップなので一つずつ丁寧に解説していこうと思います。

移動動作は倒れる動作

移動動作とは、次の支持基底面に乗り換える動作です。

もっと踏み込んで言うと、移動動作は基本的に「倒れる動作」だと考えています。

片方の脚に荷重して、もう片方を前に出して、その出した脚の上に身体を倒れ込むのが移動の本質。

筋活動としては、身体を一塊にしておくことが必要です。捻じれたり、ぐらぐらしていたら次の支持基底面にポンと乗れないからです。

支えるための筋活動と姿勢反応

この時、下肢は関節を曲げずにしっかり支えることが必要です。

いわゆる、ローディングレスポンス・踵接地期 (Loading response)の機構です。

応答反応として、伸展ではあるが、飛び上がるような伸展ではなく、支え続けて関節が曲がらない事が重要です。

そのためには同時収縮が必要です。

脚を振り出す際も、骨関節が一直線上に並ぶような筋活動が必要で、その直線上の脚をポンと出し、同時に身体をそこに倒れ込ませる。

これが移動動作の基本です。

加えて、姿勢反応が生じるためには、機械受容器が発火する必要があります。

足裏を付くのは、脳内に予めシミュレーションされているのですが、脳卒中片麻痺の方ではこれが難しいのです。

麻痺側を認識して貰う

脳卒中片麻痺の方にとって、こうした一連の動作が難しいのは、麻痺側の脚が「信用できない」からという側面もあるでしょう。

自分の身体の一部として認識できていない。

だから、移動の際に無意識にアームレストにしがみ付いてしまう。
倒れるという動作に必要な「支え」が感じられないから怖いのです。

恐怖心の正体

動作に伴う恐怖心は単に支えられない事に加え、身体がブレるとか、思った通りに動かないことへの恐怖・不安感も含みます。

だからこそ、「倒れても大丈夫なんだよ」という経験を、当事者の方に体験して貰うのがカギになります。

そうした成功体験を形作る土台として、足裏の感覚、床反力を感じ取る能力、そして全身の筋活動は欠かせません。

肩甲帯と骨盤帯

特に肩甲帯と骨盤帯。
この2つが平行を保てていないと、身体は一塊として移動できません。

仮に、肩甲骨が下がっていたら、身体は前に進みにくくなって、結果的に手に頼るしかない。

こうした代償的な動作が「悪い」のではなく、そうせざるを得ない身体状況や心理的背景が存在しているという事を、療法士は正しく理解する必要があります。

倒れないと保証する脚のシミュレーション(小脳機能)

倒れても大丈夫だという体験を支えるもう一つの要素が「シミュレーション」です。

脚をどこに出すのか、ついたらどうなるかを頭の中で予測する。

これは小脳の役割です。
小脳がうまく働かないと「どこに脚出せばいいか分からない」ということになります。

これは非麻痺側でも同じことです。

椅子の背もたれを使った練習方法

僕が臨床でよくやるのは、椅子を使った練習です。

背もたれに手を置いたままでいいので、そこから「ポン」と一歩踏み出す方法。

身体ごと乗る。
この練習は、最初はすごく怖いです。
つい、手にしがみつきたくなる。

でも、骨盤帯と肩甲帯が平行に保たれていると、その恐怖が減っていきます。

まとめ:移動動作=倒れる動作

今日の動画で一番伝えたいのは、移動というのは「倒れる動作」だということです。

そして、倒れた先の脚がしっかりしていて、倒れた後に身体を支える姿勢反応があること。

移動動作は「倒れて、支える」。

この2つの要素が移動には絶対に必要という事を覚えておいて下さい。

動画内容・チャプター

1:57 移動動作の本質は何か?
3:19 移動動作は倒れる動作
3:40 筋活動として身体を一塊にする必要がある
4:46 姿勢反応→機械受容器が発火するのが必須
6:05 麻痺側を認識して貰う(前回動画)
7:19 必要な筋肉は全身
8:06 倒れないと保証する脚のシミュレーション(小脳機能)
9:15 恐怖心の背景
9:34 脚を出しても怖くない体験は重要
11:52 振り出した足に倒れ込むが正解
12:07 椅子の背もたれを使った練習方法
12:44 まとめ:移動動作=倒れる動作