
前回は立位から一歩を踏み出すというテーマでお話ししましたが、その一歩は実際には倒れ込むような動作であるということをお伝えしました。今回は、その一歩を踏み出した後に「お尻を座面に向けて座る」という動作についてお話ししたいと思います。
結論・まとめ
・立位からの一歩は“倒れ込むような動作”(前回の復習)
・課題:お尻を座面に向けるのが難しい理由
-脳卒中片麻痺者には大きなハードル
-認知機能が少し低下している方では特に困難
-運動機能だけでなく「動作のイメージが湧かない」ことが大きな要因
・健常者は無意識に座面の位置を把握し、お尻を正確に向けて座れる
・学習・記憶→座面の位置を記憶し、動作イメージがあるため
・片麻痺者:視覚に頼り、手で確認しながらでないと不安
・リハビリ:動作の予測、身体の把握ができるようにサポート
「お尻をくるっと回すんです」などの声掛けで順序を説明し、小脳に働きかけるのが有効
・筋活動のパターンのみならず、麻痺足が支えられているか、骨盤が動作に追随できているか、肩甲骨がグラグラしていないかなどを総合的に評価する必要がある
片麻痺者にとってお尻を座面に向けるのは難しい
実際に立ち上がって一歩踏み出した後、お尻の向きを座面に合わせる必要があります。この動作は、脳卒中片麻痺の方にとって非常に難しい課題です。特に、認知機能に低下がある場合、この動作がうまくできない方は多く見られます。
動作のイメージできないことの影響
こうした背景には、単に股関節の動きがうまくいかないといった運動機能の問題もありますが、それ以上に「動作のイメージが湧かない」ということが大きな要因ではないかと感じています。
自分の身体がどこにあって、どのように動けば良いのかということが認識しづらいのです。
視覚に頼らなくても対象物が分かる
例えば、皆さんが電車に乗っていて空席を見つけたとき、お尻を座席にまっすぐ向けて座ることができますよね。
お尻には目がついていませんが、座面の位置を把握して、自然と座ることができます。これは、座面の位置を記憶にとどめて動作に反映できているからです。
一方、脳卒中片麻痺の方は、座面を視覚で確認しないと不安で、手をついて座るような動作になりがちです。
これは、視覚に頼らずに対象物をイメージすることが難しいからです。
また、自分のお尻の位置や、身体を回転させたときにどのような景色が見えるのかといった空間的な認知機能も関係しています。
認知機能の練習にも
この動作をスムーズに行うためには、股関節の回旋という運動パターンが非常に重要です。
そして、お尻を座面に向ける動作は、認知機能と運動機能が組み合わさった複雑なプロセスだとも言えます。
実際の動作としては、治療台から立ち上がって一歩踏み出し、お尻の向きを変えてゆっくりと車椅子に座るという流れになります。
これは日常生活動作(ADL)の自立に向けた訓練であると同時に、認知機能のトレーニングにもつながります。
このような練習を繰り返すことで、股関節の回旋運動の練習や、自分のお尻の位置をイメージする練習になります。
さらに、座面がしっかりあることを確認できることで安心感が得られ、余計な筋緊張を減らす脱力の練習にもなります。
健常者が無意識にできていること
改めて考えてみると、私たちが座面にお尻を向けて座れるのは、視覚に頼らずとも空間を認識し、自分の身体の動きを予測できるからです。
車椅子の座面にも、同様に正確にお尻を向けて座ることが求められますが、アームレストがあることでつい手で引っ張るようにして座ってしまうのです。
本来であれば、座面に向かってまっすぐにお尻を向けてゆっくりと座ることが理想です。この「お尻を座面に向ける」という動作は、実は非常に重要なファクターです。
リハビリでの工夫・小脳への働きかけ
座面にお尻を向けるためには、骨盤を回転させるための股関節の位置がとても大切です。
そのため、あらかじめ患者さんに「ここに座りますよ」「足を出してお尻を回しますよ」といった声かけをしておくことが効果的です。
こうすることで、脳内で「こういう動きなんだ」と理解が深まり、小脳・ミラーニューロンの働きによって動作のイメージがしやすくなります。
回旋のタイミングは難しい動作ですが、丁寧に練習することでイメージが育っていきます。
ですので、「お尻がここにあって、それが座面に向かってゆっくり降りていく」というイメージが明確に持てることが非常に重要だと思います。
総合的な視点で評価した上でリハビリをする
一連の動作を筋活動のパターンだけで捉えるのではなく、麻痺側の足で体重を支えられているか、骨盤の動きが乏しくないか、肩甲骨が不安定になっていないか…といった要素も含めて、どこをサポートすればよいかを総合的に考えることが必要です。
私たち健常者が日常生活の中でどのように身体を動かしているのかを分析することが、臨床において非常に役立つことがわかります。
今回は、座面に向けてお尻を向けて座り込んでいくときに、実は認知機能も大きく関与しているというお話をしました。
動画内容・チャプター
0:31 前回動画:立位から1歩踏み出す→倒れ込むような動作
0:48 座面に向かってお尻を向ける必要がある
1:12 動作のイメージが湧かない
2:37 視覚に頼らなくても対象物が分かる
3:06 股関節の回旋が加わるとスムーズに
3:41 認知機能の練習にも
4:21 座面にお尻が向けられる理由
5:29 座面に向かってお尻を向ける運動機能活動のパターン
7:17 日常生活でどのように動いているか分析してみる