前回は、トイレ動作でのトランスファーにおいて方向転換する際、お尻を便座に向けるには「軸回転が必要」というお話をしました。

軸回転は正常運動要素として必須の知識であり、脚のどこで、どんな風に回っているのかを理解する必要があります。

しかし、脳卒中片麻痺のリハビリでは、正常運動要素の知識があれば十分というものではありません。

脳卒中片麻痺の方は、何かしらの身体的な障害や動きづらさを抱えて日常生活を送っていらっしゃるので、目の前の方が何につまずいていて、それを解決するのにどういった練習が必要なのかを適切に評価・判断する必要があります。

そうした視点なくして、「正常運動」を単なる情報として頭の中に入れていても、臨床で活用することはできません。

今回はこの点を深掘りしていこうと思います。

論点2つ

本日の動画も色々と前置きが長いですが、話のテーマは2つです。

1.トイレ動作トイレ
便座にお尻を向けるには軸回転が必要→正常運動要素。
では、脳卒中片麻痺の方が正常運動が出来ない場合、どのようにリハビリで誘導すれば良いか？

2.レオノーレさんからのご質問
アテローム脳梗塞・左片麻痺
麻痺側の方向転換がうまくいかない

この2つについて講義を展開していきます。

麻痺側への荷重では多くの方が勘違いしている

車椅子から便座に移る際、中途半端にお尻を上げた状態で移動するのは、片麻痺の方にとっては至難の業です。

片麻痺者にとって、方向転換の際にステップを踏むのは非常に難しいことであり、これが出来たら誰も苦労しません。

往々にして、片麻痺の方は手すりにしがみついて、手でぎゅーっと身体を支えた状態から、勢いで脚を出すというバランスの悪い動き方をされます。

すると、連合反応的に腕が縮まったり、麻痺脚がキュッと突っ張ったりしてしまいます。

便座に向かって一歩踏み出す際にも、麻痺側に少しでも荷重が出来ないと、健側はフリーに動かない訳ですが、麻痺側に体重かける場合に、多くの方が勘違いをしています。

療法士は、「麻痺側に体重をかけましょうね」と口頭で説明するのですが、これではなかなか成果には結びつきません。

当事者の方は、このような指示を与えられても、麻痺側を支えた実感が得られないので、お尻を突き出すようにして体重かけようとしてしまいます。

人によっては、殿筋やハムストリングスがタイミングよく働いてくれないので、身体を後ろに崩さないと、脚が一歩前に出ない…という状況にもなってしまいます。

僕は「良い方の足から力が抜けるように立って下さい」という伝え方をしています。
「麻痺側に体重を移しましょう」という言い方はしません。

『良い方の脚の力が抜けて、ふわっと持ち上げても大丈夫なように立って下さい』という表現で誘導しています。

正常運動はつま先を軸に・片麻痺者は踵から回る

本来、僕たちが「軸で回る」時、つま先を軸にして回ります。

しかし、実際の臨床現場で、片麻痺の方に「つま先から…」とは僕は言いません。

「トイレで一歩踏み出したら、便座とは反対の方に顔を向けて」という言い方をします。

そうすると、必然的にお尻の向きも変わります。
そのままぐるっと回ると、かかを軸に回れることにります。

先に自分が行きたい方向と別の方に身体を向けておくと、かかと軸にして回ることができます。

通常、僕たちはつま先を軸にして身体と一緒に回りますが、片麻痺の方では、先に身体を回しておくと、かかと軸にして回れるので、方向転換がラクになります。

一つの考え方として、このような手順でトイレの便座に座われるようになれば、麻痺側を使う練習になり、麻痺側の身体に注意を向けるという訓練にもなります。

レオノーレさん：麻痺側に回転→足を先に動かす

冒頭の「論点」で触れたように、レオノーレさんは麻痺側の方向転換がうまくいかないそうです。

こんにちは❗️いつも山田先生の動画楽しみにしております小春です♪私はアテローム脳梗塞発症4年目でございます左片麻痺です杖歩行で毎日リハビリ頑張っております先生にお尋ねがございます右回りはとてもスムーズに歩けるのですが左回り→時計周りがとても苦手ですこれを解決する方法があればぜひご教示くださいませ何卒よろしくお願い申し上げます。

コメント頂いた動画↓
【有料級・症例解説2】視床出血左片麻痺・顔のしびれ　発想次第で介入技術がレベチに！

レオノーレさんと同じように、歩行がある程度可能な随意性がある方や膝で脚を少し上げて方向転換できる方は、進行方向に向けて脚（つま先）を先に動かしておくと、動きやすくなるケースがあります。

右に行く場合は、つま先が先に右を向きます。
左に行く場合は、つま先が先に左を向きます。

こうした細かいロジックをきちんと教えてあげると、意外と動ける当事者の方は多いです。

目や顔の向きを先に変えるのも有効

上記の方法で方向転換が難しい場合は、目・視線を使います。

行きたい方向に対して、顔や目線を先にそちらに向けるようにします。

顔を先に進行方向に向けると、非麻痺側の脚が方向を変えるので、麻痺側がそれに追随します。すると、歩き出しがスムーズになります。

まとめ

①正常運動の分析では、脚が先に進行方向に向かう。
このメカニズムを口頭で伝え、理解して貰えると、麻痺側側に動きやすくなるケースがある。

②上記で方向転換が上手くいかない場合、動きたい方向に対して、先に顔や目線を向けておく。
非麻痺側の脚がかかとを軸にして、動かせるにようになる。

ヒトの身体は多様な活動が出来る構造になっていますが、どこから動き始めるかによって動作パターンも大きく変わります。

従って、動作パターンも唯一無二の正解・正常という括りで考えず、片麻痺者の方の動きづらさの原因や背景を考察し、色々な視点で置き換えてみることが大切です。

新人療法士の方は、ぜひ参考になさって下さい。

動画内容・チャプター

2:43 歩行を教える:要素を学び対象者がつまずいている点を評価する
3:11 トイレ動作:便座にお尻を向けるには軸回転が必要
3:39 レオノーレさんからのご質問:麻痺側の方向転換がうまくいかない
4:24 便座への移り方：足元再現
5:11 中途半端にお尻を上げるのは高度な技術
6:43 麻痺側に体重かけるのは多くの方が勘違いしている
7:24 「非麻痺側の足が力を抜けるように立って」と伝えている
7:49 軸足の正常運動：つま先を軸に回る
8:30 片麻痺者：かかとを軸に回る
9:34 代償的に顔を反対方向に向けると踵を軸にして回れる
10:08 レオノーレさん：麻痺側に回転→足を先に動かす
11:30 目や顔の向きを先に変えるのも有効：健側の足の方向が変わる
12:05 【まとめ】方向転換のポイント2点
13:11 動作パターン:ヒトはどう動いているのかを考える
14:40 法人設立と自費リハマッチングの構想