【Case File4】視床出血 元気とやる気がないのは認知ループに問題があった・小脳性認知情動症候群: CCAS・高次脳機能障害

60代男性 視床出血・左片麻痺の方
今回は、山田が作業療法士になりたての頃、長野県小布施町にある病院に勤務していた頃の症例をご紹介します。
60代 男性 視床出血・左片麻痺の方で、果物農家を営んでおられる方でした。
小さな病院で地域との繋がりも強く、地元の方とも顔見知りである事が多かった事もあり、アットホームな病院内では皆がこの男性を心配し、積極的に対応にあたっていました。
この方は視床出血でしたが、随意性は比較的高く、寝たり起きたり、立ったり座ったり、排泄や食事も何とか自力で行うことができていました。
しかし、療法士や病院スタッフが声をかけて意図的に誘導しないと、洗顔しなかったり、着替えなかったり…と怠惰な面が散見されました。
全体的にも元気がなく、意欲的に活動しようという態度が見られませんでした。
当事者はやる気がないのか?
今でこそ、脳血管疾患を起因とする認知機能への影響や高次脳機能障害の研究が進んでいますが、30年前はそうした神経心理学的問題の根底に脳病変があることは周知されておらず、リハビリ現場では「やる気がない」という一言で片づけられていた時代でした。
そんな30年前の当時、山田自身は知識も経験も乏しい新米療法士。
覚えたての「下部体幹低緊張」の事しか頭になく、体幹を使うようなリハビリをこの方に行っていました。ところが、元々随意性はあるので、僕が行っていたリハビリが果たして有効なのか悩む日々でした。
この方は随意性があるのに、リハビリの時間が終わると、ぼーっとしている事が多く、ベッドに横になりたいとは言って、四六時中ナースコールを鳴らして、看護師らを困らせていました。
そのうち、病院ナースから山田の所にクレームが来て…
高次脳機能障害と認知ループ
症状の背景に「小脳性認知情動症候群( CCAS:Cerebellar Cognitive Affective Syndrome)の可能性があったと判断するに至るまで、20年の時間を要しました。
小脳性認知情動症候群(CCAS)は、高次脳機能障害の一種です。
これには「認知ループ」という機構が関わっています。
「認知ループ」は前頭前野からの情報が橋から小脳で処理され、視床の背内側核を経由し、前頭前野に再出力される神経システムです。
■認知ループ:
前頭前野→橋→小脳→視床→前頭前野
「認知ループ」のどこかがダメージを受けると、認知機能障害を呈します。
当時の症例は、視床出血により「認知ループ」が損傷を受けたために「遂行機能障害」が生じたと考えることができます。
若かりし頃の苦い経験として、強く記憶に残っている症例をご紹介しました。
次回は「脊髄小脳変性症」の症例を通して、「遂行機能障害」の具体的な中身を深掘りして行きたいと思います。
動画内容・チャプター
1:38 60代後半男性・視床出血
3:10 随意性はあるがやる気がない
5:50 下部体幹低緊張しか頭になかった
6:24 山田が実施した対策
9:21 認知ループにアプローチしていた
10:49 認知ループのどこかが損傷すると障害が出る
小脳性認知情動症候群(Cerebellar Cognitive Affective Syndrome : CCAS)
11:53 認知ループに働きかける(体幹機能・感覚情報)
12:53 元気が出ない、やる気が起きないは脳に原因があるかも