体性感覚が戻ると頭のモヤがスッキリする

自分の身体が自分の身体である「確信度」

今日の動画では、脳卒中片麻痺の方が度々訴えられる「頭の中にモヤがかかった状態」と「潜在的な随意性が高いにも関わらず能力が十分に発揮できない状態」の2点を考えてみたいと思います。

「頭の中のモヤ」ついては、これまでの臨床経験上、目の問題だと捉えていました。しかし、最近では、視覚だけではなく「体性感覚」の欠如やアンバランスによっても「モヤ」が出現するのではと考えるようになりました。

脳卒中片麻痺者の方の体性感覚を考えてみると、ひとかたまりの大雑把な感覚しか得られなかったり、触れられている箇所がピンポイントで把握できず、僕が肘を触っていたのに「肩を触っているのかと思った」など勘違いしたりするケースが見られます。

脳には視床枕(しちょうちん)という部位があり、自分の身体が自分の身体である「確信度」を判断しているのですが、脳血管疾患によりこの機能が何らかのダメージを受けているのかもしれません。

こうした現象の改善経過において「頭の中のモヤが少なくなった」と言われる方が、同時に「自分の肩からマヒ手がちゃんとくっついて降りてるっていう実感が湧くようになってきた」と言われることがあります。

身体感覚の精鋭化や活動能力の向上と反比例するように、頭のモヤが少なくなっていくのを現場で目の当たりにしています。

「麻痺側の身体の分化」が進むと(=身体の感覚が戻ってくると)、認知や受け答え、顔つきも明瞭になるようです。

具体的に何が起因しているか分かりませんが、臨床ではこうした現象が見られます。

マヒを改善させるという視点も重要ではありますが、麻痺側の身体を自分の身体として認識・知覚できるようになることは、活動面のみならず、理解や思考という点からも非常に大切だと感じています。

セラピストの皆さんなら経験した事があると思いますが、随意性は高いにも関わらず上手く歩行できなかったり、麻痺側上肢を積極的に使おうとしない方がいます。

冒頭の症例の方は、自ら「頭にモヤがかかっている」と教えてくれたので、問題解決のヒントにすることができましたが、多くの方はそうした事を直接的には伝えて来られません。

しかし、療法士として注意深く観察してみると、随意性があるのになかなか身体を動かせていない人は、同じように「頭にモヤがかかっている」ように見て取れます。

感覚処理が上手くいっていない

往々にしてこういう方は表情が独特で、それなりに覚醒はしているものの、目つきが落ち着かなかったり、ふと気づくとどこか一点を見つめている、遠い目をしていることがあったりします。
昔の元気はつらつとしていた頃の表情とは違うわけです。

また、このタイプの方はリハビリの最中に余裕がなく、性急で焦ったような態度を見せることがあります。先回りして何かしようとしていたり、慌ててあたふたしたり…と、気持ちが前のめりになっているので、落ち着いてリハビリを受けるのが少し難しい印象を受けます。

「感覚処理が上手くいっていない」というのが、山田の仮説の一つです。

ここで言う感覚は「感覚・知覚・認知」の全てを指しており、更には、意識されないレベルの感覚まで含まれる気もしています。

一次体性感覚野には、意識的なレベルでの感覚はあまり上がって来ないのですが、そこからより鮮明に意識にのぼって意味づけされるためには、二次体性感覚野や三次体性感覚野まで到達しないといけません。

感覚障害があるわけでもないのに、感覚処理が適切にされず、感覚に則った行動ができない人は、二次体性感覚野以降で何らかのトラブルがあり、頭の中にモヤがかかって、表情がぼんやりしているのではなかろうか…というのが最近の個人的な見解です。

キーワードは「頭の中のモヤ」「表情」「余裕」ですね。

セミナーでの実技講習

実際のリハビリ現場では、作業練習している時に、対象の方がどういう反応を示しているかを確かめながら、「課題レベルは適切か」「動きはどう加減すべきか」を判断・介入していくわけですが、なかなか難しい事ですし、それなり実習や訓練は必要だと思います。

2025年1月19日(日)に埼玉県ふじみ野市で開催するセミナーでは、視床出血の方を対象として、身体感覚やご本人の反応状況などを徹底的に分析・解説していく予定です。

「オーダーメイドリハビリMano」の川下先生の協力を頂きながら、講義と実技で進めますので、ご興味のある方は概要欄よりお申込み下さい。

チャンネルをご視聴のセラピストの方からのご質問やコメントも併せてお待ちしております。症例や具体的に困っている点などを詳しく記載の上、投稿下さると助かります。

それでは皆様、よいお年をお迎えください!

「出版記念セミナー 詳細と申し込み」はこちらから
https://x.gd/DKsya

■視聴枕(ししょうちん)
脳深部に左右一 対ずつある領域。認知や注意、眼球運動、上肢の到達運動など、視覚情報が関与する高次脳機能を担っている。右の視床枕には左視野から、 左の視床枕には右視野から の視覚情報が入力される。

動画内容・チャプター

1:19 以前:視覚・目の問題
1:45 現在:体性感覚の問題
2:48 視床枕(ししょうちん)
3:41 片麻痺者の感覚
4:48 亜脱臼 重症例のクライアント
6:59 随意性は高いのになぜ動けない?
8:08 当事者の独特な表情
10:33 感覚処理が上手くいっていない
12:42 行動にも余裕がない
14:16 1月19日セミナー(視床出血)
16:03 リクエスト募集