身体機能を改善する作業療法デザイン

「機能を考える作業療法」とは
今日は「機能を考える作業療法」というテーマで、作業療法士の役割とは何かを考えていきたいと思います。
我が国における作業療法の歴史を辿ってみると、1963年に日本初の理学療法士・作業療法士養成校として、国立療養所東京病院付属リハビリテーション学院が認可・開校されました。(現在の東京都清瀬市)
1965年には「理学療法士および作業療法士法」が施行、国家資格として法制化されました。
そこから、理学療法士や作業療法士が病院内で、医療保険を使って仕事をするという時代が到来します。
当時から、理学療法士と作業療法の違いについては議論がなされ、役割分野や存在意義についての懸案がありました。
身体の事にしっかり対処する理学療法士と、機能改善した上で日常生活に復帰するのを支援する作業療法士とでは、そもそも立ち位置や視点が違います。
同じ病院で同じ疾患の方を担当した際、PTは歩行などの目に見えて分かりやすい練習をしてくれるので感謝されますが、OTはパッと見、何をしているのか分からないという評価を受けがちです。
この背景には、ICIDH(国際障害分類)とICF(国際生活機能分類)という、WHO・世界保健機関によって採択された分類法の影響が多少なりともあると思います。
作業療法士のアイデンティティ・クライシス
ICFが生活機能にも注目するようになったのは良い事ですが、回復期における機能改善というビジョンやゴールに対し、作業療法士が自分の存在や立場を確立できず、アイデンティティが揺らいでいると感じています。
2013年の文献ですが、「作業療法における健康の概念の変遷」で聖隷クリストファー大学 小田原悦子先生も同様の事を述べられています。
作業療法の発展の歴史は、世界大戦や精神医学から始まり、現代の「マインドフルネス」に繋がっています。作業という活動を通して対象者の生活や環境、身体状況を良くしていきましょうという考えの上に成り立っており、生きてること全てが作業だと言っても過言ではありません。
一方で、リハビリ病院で医療保険を使っている限り、ICIDHに則って、病気でできなくなってしまった事をもう一度できるよう、機能改善に導く作業療法のアプローチがあって然るべきと僕は思います。
運動の中に作業療法の観点を取り入れるのはとても重要です。
例えば、日常生活を送るにあたって肘の曲げ伸ばしが出来る事は運動機能として不可欠ですが、何の為に肘の曲げ伸ばしをするのかと言えば、ホワイトボードに文字を書いたり、フライパンの中身をフライ返しでひっくり返したりという、目的動作を達成するためです。
その時に「こういう場面で困っているのは何でだろう?」という事を、我々セラピストは考える訳です。
理学療法士(PT)と作業療法士(OT)
理学療法士は運動力学的な視点で問題を考えるのに対し、僕たち作業療法士は「課題」として考えます。「今この場面で必要とされている課題は何だろうか」という問いに対峙する為に、作業療法的なアプローチは必ず持っておくべきだと思います。
稀に「作業療法士は機能を考えてはいけない」という極端な事を言う方がおられるようですが、それは違うと思います。作業療法士も機能改善する技術を持つべきです。
病医院やリハビリ施設の中には、作業療法的な視点を持ちながら機能改善できる理学療法士さんもいて、生活や動きの事を熟知されているので、僕はそういう方を尊敬します。
ヒトの機能障害や日常生活を考えるにあたり、作業療法的な視点と理学療法的な視点は両方必要です。作業療法と理学療法でオーバーラップする部分があるのも至極当然です。
両方の視点を持ちながら、技術も身に付けて、質の高いリハビリを提案できるようになって頂ければいいなと思っています。
■ICF(国際生活機能分類)
International Classification of Functioning,Disability and Health
人間の生活機能と障害の分類法。
人間の健康状態に関する生活機能状態から、個人を取り巻く社会制度や社会資源までをアルファベットと数字を組み合わせた方式で分類したもの。
1980年に国際疾病分類(ICD)の補助として発表され、ICIDH(国際障害分類)の改訂版として2001年5月にWHO・世界保健機関によって採択された。
ICIDH(国際障害分類)がマイナスな側面のみに着目した障害分類であったのに対し、ICF(国際生活機能分類)は、 生活機能というプラスの側面も注目するようになり、環境因子の観点が加わったことも大きな転換となった。
‐ ICFの具体的な目的
・健康に関する状況、健康に影響する因子を深く理解するため
・健康に関する共通言語の確立で、様々な関係者間のコミュニケーションを改善
・国、専門分野、サービス分野、立場、時期などの違いを超えたデータの比較
出展:厚生労働省「ICF(国際生活機能分類)ー「生きることの全体像」についての「共通言語」ー」)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ksqi-att/2r9852000002kswh.pdf
■ICIDH(国際障害分類)
International Classification of Impairments, Disabilities, and Handicaps
1980年にWHO・世界保健機関により定義される。
障害を機能障害→能力障害→社会的不利の3つのレベルに分けて捉える「障害の階層性」を示した。ICIDHはマイナス面(疾病・障害)だけに着目していたのに対し、ICFではプラス面(生活機能)を基準とする考え方に変わった。
出展:厚生労働省 10. ICIDH(国際障害分類) から ICF(国際生活機能分類) へ
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0726-7e06-3-10.pdf
■作業療法における健康の概念の変遷
医学教育 第44巻・第5号 2013年 10月
聖隷クリストファー大学 小田原悦子
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/44/5/44_286/_pdf
動画内容・チャプター
1:43 ICF(国際生活機能分類)とICIDH(国際障害分類)
2:46 作業療法における健康の概念の変遷
3:24 医療保険でリハが使えた時代(OT・PT)
4:12 理学療法はICIDHに基づく
5:09 ICFの概念は複雑
6:26 WHOの定義するICFは個人には当てはまらない
7:55 作業療法の歴史:フィリップ・ピネル(1745~1826)
9:19 理学療法士・作業療法の役割分担
10:50 作業療法士もICIDHの視点で考える
12:55 機能を改善する作業療法デザイン
13:32 運動の中に作業療法の観点を取り入れる
15:59 OTはPT領域もできた方が良い
17:01 作業療法的な視点を持っているPT
18:51 運動失調に対するアプローチ
19:31 OTとPTは違う立ち位置