【片麻痺者が動けないのはなぜ?麻痺側上肢⑨】空間保持・腕が上がらない→広背筋が痙縮で硬く肩甲骨が引っ張られる・自主トレ 11:52~

これまで「麻痺側上肢」にフォーカスを当て、①身体化 ②分離 ③空間保持と順番に講義を行ってきました。今回は最終回として、「③空間保持」について詳しく解説したいと思います。

今日の結論は、脳卒中片麻痺の方の麻痺側上肢がうまく動かないのは、広背筋の硬さが要因である可能性があるという事です。

空間保持の重要性と身体構造

空間保持が重要なのは、言わずもがな、日常生活動作に直結するからです。

手や腕は身体に繋がっていますが、どこにも支えはありません。

この構造を、木の枝に例えてみます。
木の枝は横に張っているけれども、枝の重さを支えているのは枝の根元です。
枝の根元が木の幹について、幹が地面に繋がっているから、枝は空中に留まっていられます。

枝を切ってしまえば、当然ですが下に落ちます。

身体も同じ原理で、手や腕が空中に置いておけ、自由に動かせるためには、手や腕を空中に留めておくための器官が必要です。

それが、中枢部と言われる体幹筋や肩関節肩甲帯です。
上肢リハビリでは、これらの影響が非常に大きいことを押さえておく必要があります。

肩甲骨・上腕骨頭・肩甲上腕関節・肩甲上腕リズム

肩周りの構造を簡易的にホワイトボードに書いてみました。

背骨に対して肩甲骨があります。
肩甲骨の端に関節窩(かんせつか)というくぼみがあります。

そのくぼみにちょこんと乗っているのが上腕骨頭(じょうわんこっとう)です。

それを更に拡大すると、緑色の線が先ほどの関節窩で、肩甲骨の端でお皿状になっている骨です。
お皿状の部位に、オレンジ色の上腕骨(上腕骨頭)がポコンと乗っています。

そして、上腕骨を肩甲骨の方に引きつける筋肉があります。
この構造が「肩甲上腕関節」と呼ばれる、肩関節の構造です。

関節窩の中で上腕骨が動くのが、上肢を空中に上げる一つの要因ではありますが、実際にはこの動きに伴ってお皿自体も動いてくれることがとても重要です。

この動きを「肩甲上腕リズム」と言います。

簡単に言うと、肩甲上腕リズムとは、腕を横に持ち上げる(外転する)動きの際に、上腕骨と肩甲骨が連動して動く比率のことを指します。

肩甲上腕リズムが円滑に保たれることで、肩関節の動きはスムーズで広範囲になります。

お皿(関節窩)がずっとこの肩甲骨を支えてくれるから、手や腕を空中に上げることができます。

従って、手が空中に上げられないのは、肩甲骨の問題だと言えます。

勿論、肩関節の周りの三角筋や棘上筋(きょくじょうきん)など、関連する筋肉が働かないことが原因の場合もありますが、大きいウェイトを占めているのは肩甲骨です。

肩甲骨が自由に動き、且つ、肩甲骨が身体の一部になって動くことが、手や腕を空中に保持するために欠かせない要素です。

広背筋が痙縮で硬い=肩甲骨が引っ張られる

「肩甲上腕リズム」を阻害するのが広背筋のケースがあります。

広背筋が痙縮で硬くなってしまうと、肩甲骨が下方向に引っ張られるので、手や腕を上げようと思っても上げることはできません。

脳卒中で入院している約6ヶ月間、或いは、それ以上の月日が経過していると、その間筋肉は使われません。

こうした状況で筋肉が働かないのは、マヒの影響というよりは、筋力低下の方が大きいと個人的に考えています。

自主トレ案

動画では11:49 から自主トレをご紹介しているので試してみて下さい。

腕を空中にあげて、①身体化 ②分離がどの程度出来るか、ご自身でチェックしてみて下さい。
麻痺側の手を使って上げても構いません。

空間保持を邪魔している一番の問題は腰で、腰背腱膜(ようはいけんまく)という、広背筋の腱膜と癒合し肥厚した部分です。

マヒ脚で腰を少し上げて・下ろすという動作を繰り返し、腰周りの筋肉を少しずつ緩めていきます。

この自主トレで腰を上げて、段々と楽に動くようになったぞという実感が沸いてきたら、起き上がって手を動かしてみて下さい。

前よりも動かしやすいなとか、横方向や縦方向に腕が動くようになれば、空間保持の達成に近づけた証拠です。

麻痺側上肢が日常生活で使えるまで年単位でかかるケースも

マヒ手を少しでも空中に保持できれば、握り込んで少々硬いままであっても、テーブルの上に乗せて紙を紙を押さえながらメモを取ったり、お茶碗やお皿を押さえたままご飯を食べたりするのが可能になります。

昔のように、指先まで自由自在に動かせるようにはなりませんが、ある程度の改善が見込める場合もあるでしょう。

一方で、麻痺側上肢の改善には相当の時間を要します。

僕のクライアントで、発症5-6年が経過し、これまでずっとリハビリを続けてこられた方が、最近になってやっとペットボトルをテーブルの上に置けるようになった方がいます。
当初は弛緩性マヒがあり、重度の亜脱臼もありました。

でも僕が見た限りでは、肘がちゃんと使えるので、空間保持も不可能ではないと思っていました。

麻痺側上肢の改善レベルに関しては、直接お身体を拝見しないと何とも言えないのが大前提であり、改善のスピードやレベル感には個人差が大きく出る事を理解しておいて下さい。

視聴者への注意事項

また、繰り返しになりますが、この動画を見て「よし、この自主トレをやれば手が動くようになるんだ!」と思ってすぐに実践しようとするのも、少し待ってくださいね。

ご視聴されている皆さんのお身体の状況は分かりませんし、全員が同じ環境にある訳ではありません。

現在入院中で、立ったり座ったりの練習が必要な段階の人や、先ずはしっかりご飯を食べて体力をつけることが優先の人もいるハズです。

手が動くようになるには段階があり、いきなり進んでも逆効果になることがあります。

担当しているリハビリの先生に「山田の動画で見たからやって!」というふうに、突然要求するのは控えて頂きたいと思います。

おひとり、おひとりの状況に合わせたリハビリ方法があり、特に入院中の方は、自分で「大丈夫」って思ってても、実は危険なこともあるので、冷静に判断して下さい。

動画の内容は参考にしつつ、必ず医療者と相談しながら進めて下さい。
山田からのお願いです。

動画内容・チャプター

0:18 麻痺側上肢の空間保持
0:56 手と腕は身体に繋がっているが支えがない
1:45 空中に留めておく:肩関節肩甲帯や体幹の影響が大きい
4:26 麻痺側上肢が日常生活で使えるまで年単位でかかるケースも
5:47 麻痺側上肢の改善レベルのイメージ
6:17 肩甲骨・上腕骨頭・肩甲上腕関節
8:03 肩甲上腕リズム
9:13 単純な筋活動だけではない
10:05 広背筋が痙縮で硬い=肩甲骨が引っ張られる
11:49 自主トレ案
13:19 1番問題なのは腰
15:07 腰周りの筋肉を少しずつ緩めていく
16:06 視聴者への注意事項
18:56 個人によって状況は全く違う
19:45 上肢のリハに対する過度な期待や誤解はなきよう