【脳卒中の後遺症を理解する①】脳卒中片麻痺から完全回復したと言ってる人は自分と何が違うのか・発症の経過と障害の違い

本日から5回にわたり「脳卒中の後遺症を理解するシリーズ」として、脳卒中の病態や後遺症をどう理解すれば良いのかという概論をお伝えしていこうと思います。

解説テーマ

第1回:発症からの経過と障害の違い(本当に障害された所と残っている所)
第2回:「治る?治らない」VS「治す?治さない?」(言葉の定義と予後予測)
第3回:脳の機能回復・代償による生活の自立(同名半盲の症例)
第4回:急性期・回復期・維持期で基本的に共通して持った方が良い視点
第5回:今何が、どの機能が、どのような介入が求められているか?

第1回目の今日は「脳卒中の発症からの経過と障害の違い」です。

「脳卒中」は脳の血管に障害が生じる病気の総称で、医学的には「脳血管障害」と呼ばれます。

脳卒中は大きく3種類に分けられます。

■脳の血管が詰まるタイプ
①脳梗塞
・ラクナ梗塞
・アテローム血栓性脳梗塞
・心原性脳塞栓症(しんげんせい のうそくせんしょう)

■脳の血管が破れるタイプ
②脳出血
③くも膜下出血

①脳梗塞と②脳出血

①脳梗塞と②脳出血では、病状や脳の組織の壊れ方が異なります。

①脳梗塞
脳の血管が詰まり、そこから先の血流が途絶え、脳の神経細胞が死んでしまいます。

②脳出血
脳内にある細い動脈が、何らかの原因で破れることで脳内出血します。脳内に出血した血液は血の塊(血腫 けっしゅ)を作り、脳を圧迫して脳がむくみます。

脳出血の場合、出血部位の組織は死滅することがあり、血腫で圧迫されていた神経繊維が機能不全を起こすものの、機能が生き残る場合もあります。

例えば「被殻出血」では、「内包後脚(ないほうこうきゃく)」という「随意運動」に指令を出す部位が圧迫され、一時的に手足に麻痺が出ることがあります。しかし、圧がなくなれば、リハビリなどの練習で再び神経が繋がるケースがあります。

脳卒中で倒れて一時的にマヒなどの後遺症が残った人が、リハビリや自己療法により『自分は良くなった。100%完治した。マヒは治った!』とSNSや書籍で宣言されているのを見かけることがありますが、恐らく上記のケースに当てはまる方なのではと想像しています。

脳出血により部分的に脳細胞が死滅したものの、手足の運動を司る神経は、圧が加わって位置がズレたがゆえに機能しなくなっていたのであり、圧が弱くなったら、神経が復活して通るようになったという事です。
この場合、そもそも手足の随意性は障害されていなかった…と個人的に考えています。

このように、病態や発症部位によって障害や後遺症の出方が違うことは、当事者の方に認識して頂きたい点です。

脳梗塞

さて、①脳梗塞では、「アテローム型脳梗塞」と「心原性脳塞栓症(しんげんせい のうそくせんしょう)」によっても、出現する障害は異なります。

「アテローム血栓性脳梗塞」は、脳内の動脈や頚動脈でプラーク(コレステロールの塊)ができ、血管の内壁が狭くなって血流が悪化することで生じる病気です。
プラークや血栓が血管を詰まらせたり、血栓が血管の壁から剥がれて流出し、脳の深部の血管を詰まらせてしまったり、完全に太い血管が閉塞してしまう事によって起こります。

アテローム型は、脳の動脈全体にプラークや血栓が溜まってる訳ですから、脳機能が全体的に低下します。出現する現象としては、元気がなくなり、低緊張で体がグズグズして、しっかりできない状態になることが多いです。

「心原性脳塞栓症(しんげんせい のうそくせんしょう)」は、心臓でできた血の塊が血流に乗って脳に運ばれ、脳の血管を詰まらせる病気です。
大きな血栓が流れてきて突然詰まるので、症状の出方も急激です。
急に手足が動かなくなり、救急搬送されるケースがこのタイプです。

「心原性脳塞栓症」は脳血管そのものは損傷していない事も多く、詰まるのはごく一部なので、死滅する細胞も部分的で、全体的には機能を取り戻しやすい安い脳梗塞と言えます。

なぜ自分はあの人とは違うのか...

ここまで述べてきたように、
・脳脳の中で何が起こって、どうなった結果、今の症状が出ているのか
・今の自分にはどんな機能が残されているのか
を正確に把握しておかないと、周囲の情報に振り回され、様々な勘違いや誤解のリスクになります。

・あの人は良くなったのに、何故自分は回復しないのだろうか…
・担当の療法士が未熟だからだろうか…
・選んだ回復期病院がハズレだったのだろうか…
と答えのない堂々巡りをしてしまいます。

勿論、療法士こそ、こうした知識を学習する必要性がありますが、昨今の彼らを取り巻く環境では、病態の詳しい分析をするのは難しいのも否めません。

こうしたこともあって、僕は療法士と脳卒中片麻痺者の両方に向けて、情報発信をして参りました。

お陰様で、5年間の発信を経て、この度チャンネル登録者数が1万人を達成しました。
来週も引き続きシリーズをお届け致しますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。

動画内容・チャプター

1:49 脳卒中の後遺症を理解するシリーズ全5回
3:04 各テーマについて
6:38 今日の話題:発症からの経過と障害の違い
6:54 脳梗塞と脳出血
7:04 脳梗塞
7:33 脳出血
8:28 脳卒中から完全回復した!と言っている人
10:44 アテローム型脳梗塞:全体的に脳の機能が低下する・低緊張
11:21 心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう):症状が急激
12:29 病名・損傷部位と症状を理解する
13:06 脳梗塞や脳出血では炎症が生じる(脳浮腫)
14:54 残存機能