【片麻痺者が動けないのはなぜ?被殻出血⑥】青斑核とトーン改善・手足の感覚受容器を利用しノルアドレナリンで脳を覚醒させる

被殻出血の方がトーン変化(筋緊張の変化)を促すための仮説とアイディアとして、青斑核(せいはんかく)という脳の仕組みを説明しながら、 麻痺側手足の感覚受容器を刺激する自主トレをご紹介したいと思います。
痙性が強い方や低緊張の方は、実践は困難かもしれません。
そうした方も実施できるような自主トレは、機会があれば後日配信する予定です。
具体的な自主トレは 8:03 から開始します。
「自主トレ」も大事ですが、前提となる"理屈"がとても重要なので、ぜひ最初から最後まで聞いていただき、ご自身で安全を確保した上で行って下さい。
※今回の動画で「振動覚(しんどうかく)」というキーワードも登場しますが、振動覚に関しては、次回以降の動画で詳しく取り上げる予定です。
目次
右被殻出血・左片麻痺例
Let's ケーススタディ 症例 p134
◆Let's ケーススタディ 脳卒中リハビリテーション
第3章:臨床deケーススタディ
日常生活に活かす脳卒中後片麻痺者への介入の考え方
6.麻痺側上肢に注意を向け潜在能力を引き出す
60代 女性 無職 右被殻出血・左片麻痺
女性のコンディション
歩行はほぼ問題なく、家事をこなしたり、犬の競技に参加したりするなど、高い生活レベルが維持できており、随意性も一定レベルで保持できている様子。
しかし、療法士が麻痺手に介入すると姿勢緊張や覚醒の低下を招き、且つ、表情もぼーっとして集中力が乏しい。
麻痺側上肢に対しても注意が向かず、本人が訴えるニーズとは異なり、改善への熱意や切実さが伝わってこない。会話の内容もちぐはぐ。
理屈が重要
僕の講義は前置きやうんちくが長い…とご指摘を受ける事も多々あるのですが、理論や背景が重要なので、「結論だけ知りたい」という方は、どうぞこの動画は閉じて、他のチャンネルに移動して下さればと思います。
リハビリの「形」だけ真似しても意味がないですから。
簡潔に内容を知り合い方は、動画チャプターをクリックするか、概要をまとめた公式ブログをご覧ください。
青斑核(せいはんかく)
脳には青斑核と呼ばれる小さな神経核(神経の集合体)があります。青斑核は脳幹に位置し、中枢神経系内で多数のノルアドレナリン神経細胞が集中して存在しています。
覚醒レベルの制御、注意、情動、ストレス反応、痛みのコントロールなど、様々な脳機能に関与しています。
青斑核は大脳、小脳、海馬、延髄など、中枢神経における主要な領域に軸索を伸ばして接続し、それらの部位を支配しています。
同時に、視覚、聴覚、痛覚、体性感覚など末梢からのあらゆる身体部位から感覚を受容しています。
ノルアドレナリン
青斑核の活動が活発化すると、脳の色々な部位にノルアドレナリン(ノルエピネフリン)と呼ばれる神経伝達物質を放出します。
ノルアドレナリンは、交感神経系の神経伝達物質であり、ストレスを感じた時や緊張した時に分泌され、血圧上昇、心拍数増加、集中力向上などの作用を及ぼします。
意欲や記憶、学習にも影響を及ぼしていると考えられています。
仮説:麻痺側手足の感覚→青斑核の発火
長年の臨床経験に基づいた考察から、「麻痺側の手の平や足の裏の感覚をうまく捉えられると、青斑核が活性化する」という仮説を立てています。
p134の女性は、右被殻出血なので、右側の脳が適切に活動していない状態でした。
片方の脳がお休みしている状態に対して、青斑核を活性化して働きを高めることで、覚醒レベルや注意力が向上すると踏んだのが、今回の症例ポイントの一つです。
事実、振動覚(+青斑核)に働きかける介入を行った結果、今まで注意散漫で覚醒度が乏しい状態だったのが、突然目をパッと開き、ご自身のマヒ手を眺めながら「ちょっと動いてる!」といった反応を示してくれました。
手の平と足の裏:感覚受容器が豊富に存在
エビデンスのない個人的な見解ではありますが、こうした改善効果が得られやすいのが、手の平や足の裏の感覚なのでは…と考えています。
手の平と足の裏には、「感覚受容器」が豊富に存在しています。
「自分の手足」には、注意が向きやすいことも関係しているでしょう。
指先には「弁別能力」と呼ばれる機能が備わっています。
「弁別能力」とは、指先を使って異なる物や状態を区別する能力を指します。
水に手を入れた時に冷たさを感じたり、針で刺されたときに強い痛みを感じたり、ボールの丸みを認識したりと、私たちは日々触覚を感じながら生活しています。
指先の「弁別能力」では、2点を「同時に」刺激したり、1点を刺激した後、時間を空けてもう1点を刺激したりするテストを行います。
ザックリ言えば、硬さ、凹凸、温度などを区別する能力を測定するもので、手の他に舌や足にも同様のテストがなされ、それぞれの身体部位の「感度」を測定しているワケです。
このメカニズムを被殻出血のリハビリに当てはめると、
『手の平や足の裏の感覚に上手く荷重でき、その感覚を感じることができれば、青斑核が刺激され、ノルアドレナリンが放出されて脳全体の活動が高まる』
と見立てています。
自主トレ適用外の方
青斑核を刺激する自主トレは8:03 から開始します。
冒頭でも触れましたが、椅子やテーブルに手の平をつけない方、痙性が強くて腕や肘が曲がったままの方、低緊張でダランとして力が入らない方にはマッチしない内容です。
こうした方には、機会を見て、別の自主トレ方法もご提案したいと思っています。
ですので、今回は参考程度に見てみて下さい。
立ち上がる前に手をついて体重移動する
椅子やテーブルに手の平をつける方は一緒にやってみましょう。
立ち上がる動作の延長で、立ち上がる前に両手をテーブルや椅子について、手に向かって体重かける。
この時、可能なら、手の平をテーブルの上にベッタリつけて下さい。
非麻痺側の手をメインに、前にグーっと体重をかけながら、ゆっくり立ち座りを繰り返します。
手の平と足の裏に体重がきちんと乗ってきて、感覚情報が青斑核に伝わるので、脳が活性化して覚醒レベルが高まり、スッキリした気分になることが期待できます。
最初からこの自主トレが綺麗にできるとは限らないので、出来る範囲で少しずつトライしてみて下さい。
まとめ
被殻出血(脳卒中)の方が、トーンの変化(筋緊張の変化)をどう引き出すかについて解説しました。
一つのやり方として、麻痺側の手の平や足の裏の感覚受容器を使って、そこに荷重できると、脳の活性化に繋がるという仮説のご紹介でした。
動画内容・チャプター
0:47 トーンの変化を促す具体的な方法
0:59 134ページ:覚醒が悪い方の症例
2:01 形だけ知っていても意味がない
2:31 トーンの変化を促すには
2:55 青斑核(せいはんかく)
3:57 麻痺側手足の感覚:青斑核が発火(山田の仮説)
5:08 目をパッと開いて注意力が改善
5:32 手の平と足の裏:感覚受容器が豊富に存在
6:25 手足への荷重:青斑核への刺激から脳活動が高まる(山田の仮説)
6:47 具体的な自主トレ
6:55 ヒロユキさんからのご質問(麻痺手が不安定)
7:38 痙縮が強い方や弛緩して力が入らない方は適用外
8:03 椅子やテーブルに手を置き、体重をかけて立ち座り動作をする
10:17 【まとめ】麻痺側手足の感覚受容器を利用し、荷重すると脳の活性化に繋がる
11:13 聖路加国際病院 PT岡村先生とのやり取り