【片麻痺者が動けないのはなぜ?回答編2】被殻出血・背中の筋の短縮と痙縮・健側を下にして横になりづらい:筋の硬さを解放する考え方

今回は「ヒロユキさん」から寄せられたご質問にお答えしながら、被殻出血の方における「背中の筋の短縮と痙縮」を中心に、筋の硬さを解放する方法について考察していきたいと思います。

脳卒中の後遺症・原因と解決法

脳卒中による後遺症の現れ方や重症度は個人差が大きく、すべてに共通するリハビリ法は存在しません。

原因や改善策をある程度予測できる場合もありますが、被殻出血のように多様な症状が重なって現れるケースでは、明確な原因を特定することが困難です。

そのため、実際のリハビリでは「ここが問題」と断言できる状況は滅多にありません。

そうした中で、前回の動画では、「右片麻痺・ワレンベルグ症候群のたかさん」の症例を取り上げました。

たかさんの場合は、「ワレンベルグ症候群」という診断名が付いているので、「延髄外側の問題」に限定して考えることができ、具体的な解決策を提案しやすいケースでした。

被殻出血・左片麻痺の男性

たかさんに引き続き、ヒロユキさんからご質問を頂戴しましたのでご紹介します。

ヒロユキさんからのコメント
被殻出血で左側が良くありませんが、右を下に寝にくいです。
これはどういった理由なのでしょうか。

ヒロユキさんは、僕が過去に1度、山田が直接お身体の状態をみて、リハビリをした方です。

お身体の状態がある程度把握できているので、彼の場合も、被殻出血例として原因や解決法が提示しやすいケースです。

ヒロユキさんは、山田の著書「Let's ケーススタディ 脳卒中リハビリテーション」で少し取り上げています。

右被殻出血・左片麻痺例

Let's ケーススタディ 症例
◆p59 第2章:脳卒中後片麻痺者への介入のための基礎知識
5.行動分析⑤ 歩行
「正常運動要素と比較検討する」という視点 

発症から5年経過し、外歩きが怖いと、ほぼ室内での生活を送られています。

「非麻痺側を下にすると寝づらい」との事でしたが、問題を幾つかに分けて整理できると思います。

非麻痺側の腰が硬く短縮・痙縮がある

ヒロユキさんの問題の背景として、非麻痺側の腰が非常に硬くなっているため、動きが悪くなっていることが想像されます。

これにプラスして、背中の痙縮も大きなウェイトを占めていると理解しています。

背景には背骨の痙性筋が存在する

片麻痺の方で、痙縮でお悩みの方は多いと思います。

目に見える現象として、筋肉の硬さがあります。
筋が硬くて凝っているので、マッサージやストレッチをしたくなってしまいますが、残念ながらこれだけでは問題の解決には至りません。

痙縮は中枢神経が何らかの誤作動により、過剰に指令を発している、或いは、正常に指令を発しない結果起こっていると捉えています。

脳は一次運動野から動作の指令を出します。
肘を動かしたり、手を上げたりする場合、運動の指令を出すのと同時に、肘や手を伸ばすために必要な姿勢調整や体幹のコントロールも同時に行っています。

微妙な体重の位置を制御し、全身でバランスを取るよう脳から指令が下るのですが、通常、こうした調整は無意識の元で行われます。

呼吸や体温調整、血圧の調整と同じように、身体動作も脳での自動調整を元に行われています。

これら全てをひっくるめて、「肘を伸ばす」「手をあげる」といった動作が達成できます。

ところが、脳卒中片麻痺の方では、こうした動作がスムーズに行えなくなります。

痙縮によって肘を伸ばそうとした時に、麻痺手が思うように動かなかったり、肘が曲がったりしてしまう…

この原因の一つとして「背骨の筋肉に痙性がある」というのが山田の仮説です。

基底核の影響も

背骨付近の痙性を更に突き詰めていくと、「基底核の影響」もあると考えています。

個人的な考察なので推測の域を出ませんし、臨床での経験がベースになっているので、エビデンスはありません。

「大脳基底核は、脳の活動や筋肉の活動にブレーキをかかける」という話を以前の動画で行いました。ブレーキをかけるという事は、「脳からの情報・指令に対して出力をするな」という事になります。

片麻痺の方が、肘を伸ばす際に、意識的に肘を伸ばすための筋肉を使おうとし、それに沿って一次運動野からの命令が下るのですが、その信号を受けた大脳基底核が、ブレーキをかけてしまいます。

そのブレーキをかけている大本が「背中の筋肉」ではなかろうか、というのが個人的な仮説です

筋の硬さはマッサージやストレッチでは取れない

背中の痙縮筋は、マッサージやストレッチでは取れません。

痙縮による運動障害を改善するには、楽にゆっくりと手を伸ばしたり、脚を置いたりする随意運動(選択運動)をすることで、徐々に痙性が取れて来るというのが臨床からの実感です。

痙性が緩んでくれる上肢リハビリや歩行リハビリがあるのですが、専門的な内容になりますので、現在構想中の「療法士向け 有料eラーニング」でいずれお伝えできればと考えています。

非麻痺側を下にして横になれない

背中に痙縮があると、なぜ非麻痺側を下にして横になることができないのでしょうか。

ヒロユキさんの状況を再現してみましたので、動画 9:20 のチャプターをクリックしてご覧下さい。

通常の横向きとヒロユキさんの状態をまとめると下記です。

■通常
・頭を枕につけて、耳を下にして横向きになる
・肩や胴体が横になり、腰も足も側面が地面につく
・この状況ができて初めて安定できる

■ヒロユキさんの場合
・非麻痺側の右側の腰が硬いので、横になった時に浮いて空間ができる
・腰やお尻が後ろに落っこちてズレる
・痙縮で肩甲骨が後ろに倒れる
・横向きにしたいが身体がねじれて半身になり、上を向いて開いている状態
・これでは身体は休めない

解決案:右腰の硬さ(短縮)→肩甲骨の可動性

ヒロユキさんの問題を解決するのに、先ず行わなくてはいけないのは、右腰の硬さへのアプローチです。

背中や腰の短縮を踏まえた上で、痙縮が硬くならないように、肩甲骨の可動性を担保し、ゆっくり動かす練習が必要です。

自己解決は難しく療法士の助けが必要

残念ながらこれを自主トレで行うのは難しく、療法士など、誰かの手を借りる必要があります。

ご自分で自覚ができていないという事は、自分の問題が見えていない、或いは、実際に分かっていないという事です。

背中の痙縮がどの位の硬さなのか、柔らかくしたけどまだここに残っている、というのは、人の手を介さないと分かりません。

加えて、痙縮は自覚にはのぼって来ないので、自分一人で解決するのは困難です。
プロの手を借りて、身体の調整をして貰う必要があります。

まとめ

ヒロユキさんからのコメントを取り上げ、被殻出血では痙縮が問題を引き起こすことで、身体が良い位置に留まらないという例をご紹介しました。

マヒ脚がうまく出なかったり、硬くなって突っ張ってしまう背景に、背中の筋肉の硬さ(=痙縮)が存在し、それを解決するためには、専門家によるリハビリで、筋肉の硬さを解放する介入が必要と考えます。

ヒロユキさんは、山田が過去に直接リハビリをさせて頂いたので、詳細な状況を把握し、具体的なリハビリ方法を提示できました。

今回の動画は、被殻出血の方全てに当てはまる内容ではありませんが、参考としてご覧ください。

動画内容・チャプター

0:19 ヒロユキさんからのコメント
0:42 Let's ケーススタディ 症例 p59
1:19 被殻出血・左片麻痺 右側臥位で寝にくい
2:04 発祥5年経過:健側の腰が硬い+痙縮
2:54 痙縮:中枢神経の誤作動で生じる筋の硬さ
3:09 脳は身体全体の調節を行っている
4:05 背景には背骨の痙性筋
4:33 基底核の影響(山田の仮説)
5:18 ブレーキの大本が背中の筋(山田の考察)
5:28 筋の硬さはマッサージやストレッチでは取れない
6:44 横になるという事(側臥位)
7:02 ヒロユキさんの場合
8:46 全ての被殻出血には当てはまらない
9:20 ベッドでの再現
9:44 右の腰が硬いので浮く・痙縮で肩甲骨が後ろに倒れる
10:30 別角度からの再現
11:46 解決案:右腰の硬さ(短縮)→肩甲骨の可動性
12:19 自己解決は難しく療法士の助けが必要
13:11 まとめ
14:22 療法士向けeラーニングの構想