【片麻痺者が動けないのはなぜ?口内編】顔面神経は同側支配・ラムネ飴を使った自主トレで改善・ほっぺたの内側を噛んでしまう・食べ物が残る

今日は被殻出血の後遺症として「口の中の問題」について解説していこうと思います。
「塩分チャージタブレット(ラムネのような飴)」を使った自主トレ方法の解説は 10:07 からスタートします。
タブレットを用いた自主トレ場面は、2025年6月13日にアップした「ショート動画」でも少しご紹介しています。これとは別に、横浜のクライアントに対する口元のトレーニングもようも公開が可能となった場合は、いずれご紹介したいと思います。
目次
マヒ手への介入の前に…
今後配信予定の動画として「マヒ手」に関する講座をアップする予定ですが、実は、口周辺の機能もマヒ手の問題に大きく関わっていることがあります。
「マヒ手の改善」と題名づけると、どうしても「マヒ手を良くする自主トレを知りたい!」と皆さん前のめりになりがちですが、手の機能を考える上で、口や顔の話をおさえておくことはとても大切です。
脳卒中による後遺症で唇や口の中が動きづらく、ほっぺたの内側を噛んでしまったり、食べ物が口の中に残ってしまったり、以前のように味が感じられない…とお悩みの方も多いと思います。
口元は何とか動かせるけど、なかなか思い通りに行かないという点にフォーカスを当てて、話を進めていきます。
臼磨運動(きゅうまうんどう)
口の中で食べ物を噛む際、顎や歯は上下に開いて閉じるだけではなく、「臼磨運動(きゅうまうんどう)」を行っています。
「臼磨運動」とは、食べ物を噛むときに下顎が円を描くように動く運動のことを指します。要は「すりつぶすように噛む動き」です。
脳卒中リハビリで食べ物を食べる練習をしている際、多くの方が、垂直にパクパク噛んだり、唇を閉じずに一方的に噛んだりしがちです。
しかし、臼磨運動は、横方向にもスライドするのが特徴であり、練習の成果として、自由自在に顎が動くようになるのが望ましいのです。
包帯を使った練習案
後ほど紹介する「塩分チャージタブレット」の前に、包帯を使った練習方法をご紹介します。
新しい包帯を用意し、唇と歯だけを使って、包帯を取り込んでいく練習です。
唇と歯、頬だけをつかって、口の中に長い包帯を折り畳んで入れていきます。
手や箸を使わず、また、蕎麦やうどんのようにすすったりもしません。
包帯のような一定の長さがあるものを、口の中に入れるトレーニングは、顎(あご)の運動に最適です。
なぜ頬の内側を噛んでしまうのか?
そもそもなぜ、脳卒中の後遺症で頬の内側を噛んでしまう事が多いのでしょうか?
この問題は「口の中に食べ物が残る」事にも繋がります。
僕たちの頬は柔らかくプニプニしているイメージがありますが、ここには「頬筋(きょうきん)」と呼ばれる筋肉があります。
頬筋は表情筋の一つで、口の横(頬の部分)に位置します。頬筋の作用によって、頬が膨らんだリ、笑顔が作られたりします。
頬筋は口輪筋(こうりんきん)と協調して働く作用もあるため、ほっぺタを動かす時には、必ず唇も一緒に動きます。
唇と同期して頬筋は動くので、唇が動きにくいと、頬筋は動かなくなります。
脳卒中片麻痺の方で、口元が動きづらい方や唇がちゃんと閉じない方は、頬筋の働きも悪くなっています。
唇や頬の動かしづらさはマヒではない
こうした唇の動かしづらさや頬筋の働きの悪さを「マヒだ」と思われている方がおられるようですが、麻痺ではありません。
頬筋や口輪筋は「顔面神経」に支配されています。
「顔面神経」は同側支配です。
ヒトの身体は、基本的に以下のような 「交差支配(対側支配)」 が一般的です。
右脳 → 左半身を支配
左脳 → 右半身を支配
「同側支配」はそれとは逆で、脳の半球が、身体と同じ側の運動や感覚を支配している状態です。
右脳 → 右半身を支配
左脳 → 左半身を支配
脳卒中片麻痺は、「交差支配(対側支配)」によるものが多いです。
左片麻痺の方は、"右側の脳"が損傷して左側に麻痺が出るので、顔面神経麻痺は同側支配の"右側"に出ないといけません。
左肩麻痺だから、顔面や口元のマヒも左側に出ている…と考えるのは間違いです。
右側の脳が損傷し、左片麻痺にになった場合、頬や口元に出現する機能障害は、左側の手の重さに引っ張られ、肩甲骨がぐっと下がってしまうことで二次的に生じているのが原因です。
口元の前に、麻痺手はどうなっている?
頬の内側を噛まずに、口の奥に食べ物が残らないようにするためには、頬筋と口輪筋の自主トレを実施する前に、麻痺側上肢(麻痺手)の事を考える必要があります。
今日の動画で提案している「包帯を使った自主トレ」と「タブレットキャンディを使った自主トレ」の両方で言えることですが、先ずはご自身の麻痺側上肢の状態を確認してみて下さい。
原理は後ほど解説しますが、麻痺側の手がぶら~んと下がっている方は、自主トレの際に、できるだけ手や腕をテーブルなどに乗せて、重さが影響しない状態で練習を行って下さい。
裏を返せば、手や腕の練習をして、手が軽く動くようになってきたら、口腔内や嚥下、口元の問題も解決するという事です。
頬の内側を噛んでしまうのはどんな時か
さて、自主トレに入る前に「頬の内側を噛んでしまうのはどんな時か」を一緒に考えてみましょう。
僕たちが頬の内側を噛んでしまうシーンを思い浮かべると、「食事に集中していない時に噛む」ことが多いと想定されます。人と喋りながら食事したり、別のことに注意を向けていたりすると噛みやすくなる傾向がありますよね。
食事に集中し、食材の美味しさを感じている時は、ほっぺたの中は噛まないと思います。
頬を噛んでしまう理由を機能面から考えてみると、口輪筋と頬筋のバランスが崩れた時に噛みやすいと言えます。
もう一つは、頬筋の機能低下です。
頬筋は、頬を内側に引き寄せることで、頬を歯や歯茎に押し付け、食べ物を口の中で中央に集める働きを持っています。食べ物を食べる際、口の奥に何かが残っていると、僕たちは強い違和感を覚えるので、顎を動かしたりして食べ物を口の中央に戻します。
その際、顎と一緒に頬筋も働くので、頬筋からのテンションから内圧が加わることで、食べ物が中央部に戻ってきます。
ところが、先に述べたように、片麻痺で手や腕がだらんと下がり、ほっぺたも下がり気味で、口も中途半端にしか閉じられていないと、ご飯を食べている時に内側を噛んでしまったり、歯の奥に食べ物が残りやすくなったりしてしまいます。
こうした問題を解決するのが、(既に言及した)「包帯を使ったトレーニング」と「タブレットを用いたトレーニング」です。
タブレットキャンディを使った自主トレ
それでは、タブレットを用いた自主トレを行っていきましょう。
通常の飴玉でも良いですが、僕が個人的におすすめするのは「塩分チャージタブレット」です。ラムネのような形状・食感をしたキャンディで、一定のサイズ感があるものです。


強く噛みすぎるとタブレットがポキッと折れるので、噛み砕かない程度の力で加減するという訓練にもなります。
タブレットを口に入れたら、唇で持つ練習をします。
これは口輪筋のトレーニングになります。
口輪筋の練習をすると、自ずと、頬筋も一緒に働く事になるので効果的です。
次に、前歯→奥歯というふうに、タブレットを口の中で順番に移動させます。移動させることで、舌の練習になります。
前歯でちょっと噛んでみたり、奥歯で嚙み潰さないようにそっと噛んでみたり、麻痺側の奥歯で噛んでみたり…
そこから、タブレットをわざを歯とほっぺたの間に落として、落としたタブレットを再び口の中央に戻すという練習も行ってみます。
その時も、顎や口の開き具合によって、頬筋のテンション(緊張度合)が変わってくるので、食べ物を口の中心に戻すトレーニングに繋がります。
この練習を実施する際には、必ず「マヒ手」の存在を考慮し、テーブルの上に乗せたり、脇にクッションを置いたりして、肩甲骨を上にあげておくといった工夫をします。
麻痺側上肢を気に掛けながら口の練習をすると、上手に噛めるようになります。
きちんと噛めるようになると言うことは、食べ物が口の中でお粥状に変わり、飲み込みやすくなるため、むせることを防げます。
まとめ
脳卒中による後遺症で、ほっぺたの内側を噛んでしまったり、食べ物が奥歯に残ってしまい困っているという方は、今日ご紹介した2つの自主トレにトライしてみて下さい。
1.長い包帯を口の中に入れる(手を使わない)
2.タブレットキャンディを噛んだり、口の中で移動させる
療法士の方は、担当する当事者の方が「口の中の問題」で困っていたら、飲み込みが悪い、とか、噛む力弱い…と単純に片づけるのではなく、筋肉の作用を勉強した上で、なぜそれが上手く機能しないのかを考察しながら介入方法を検討するようにして下さい。
タブレットを用いたリハ風景:ショート動画
動画内容・チャプター
1:29 頬の内側を噛まずに、食べ物も残らないようにする
2:10 口や顎の関節はどう動くのか
2:32 臼磨運動(きゅうまうんどう)
3:07 口は単純な上下運動ではない
3:59 包帯を使った練習
4:45 なぜ頬の内側を噛んでしまうのか?
5:41 頬筋(きょうきん)
6:09 頬を動かす時は唇も同時に動かしている
6:41 マヒではない(顔面神経)
7:37 頬筋の作用:口輪筋と上肢を考える
8:23 頬の内側を噛んでしまうのはどんな時か
9:52 頬筋・口輪筋・上肢のトレーニング
10:07 塩分チャージタブレット
10:36 タブレットを用いた練習方法
13:09 横浜からのクライアント:味覚を取り戻す
13:45 リハビリのご相談について
15:04 6月15日(日)札幌セミナー