【片麻痺者が動けないのはなぜ?⑧】歩行練習を「形」の練習として捉えても無意味!異常な運動連鎖・ギックリ腰と片麻痺者の意外な関係JP

絶賛、ぎっくり腰継続中の山田です😭
今日は、前回の「バランスのいい歩行練習のやり方・内反尖足とクロウトゥが出る原因」の続きとして、「異常な運動連鎖」について解説しながら、「歩行練習の考え方」について述べたいと思います。
前半は僕のぎっくり腰の顛末記になります。
「歩行練習の考え方」を先に聞きたい方は、概要欄からチャプターで気になる箇所をクリックして確認してください。
また「Let's ケーススタディ 脳卒中リハビリテーション」の症例も触れながら、脳卒中片麻痺者の方の歩行について解説しています。
お手元に書籍のある方は、97ページを参照してください。
目次
Let's ケーススタディ 症例 p97
◆Let's ケーススタディ 脳卒中リハビリテーション
第3章:臨床deケーススタディ
日常生活に活かす脳卒中後片麻痺者への介入の考え方
2.「とりあえず歩ける」以上に歩行効率を上げる
p97 50代 男性 歯科医師 延髄梗塞 左片麻痺
モデル:ちゅんたご飯粒さん
山田稔 ぎっくり腰になる
2025年03月11日に「リハビリ職人育成講座」の動画でお知らせしたように、ぎっくり腰になってしまいました。
ギックリ腰から考察する脳卒中片麻痺者の姿勢制御の阻害要因
https://www.youtube.com/watch?v=H9CH6Fd59OY
夜にストレッチをやっていたら、いきなりギックリ腰になってしまいました。
皆さん良くご存知かと思いますが、突然起こるのがぎっくり腰です。
ぎっくり腰の原因は、端的に言えば「筋筋膜症状」です。
我々の筋肉は「筋膜」と呼ばれる膜に覆われています。
身体を動かす際に、筋肉と筋膜が上手に滑り、スムーズに連動することで筋肉同士が効率的に働き、近くの筋肉と遠くの筋肉が協調することで身体活動が達成されます。
筋膜の機能が癒着していたり、剥がれていたりすると、痛みが生じて、滑らかな筋活動が行えなくなってしまいます。
こうした症状が急激に、突然起こるのがぎっくり腰なのです。
以前は、炎症症状は「安静にする」という考えがメインでしたが、昨今では「動いて治す」というのが主流になっています。
ギックリ腰でもむしろ動いた方がいいので、痛くない範囲で動き、自分自身で筋膜リリースを施したりしてこの2日間過ごしてきました。
ところが、症状は益々悪化するばかりだったので、病院を受診しました。
歩けないのは痛みがあるから?
筋筋膜症状による痛みは「スパズム」(Spasms)が原因です。
「スパズム」というのは、自分の意思とは関係なく局所的に筋肉の収縮が起こることを言います。
筋肉が痙攣(けいれん)し、血管を圧迫することで、虚血状態となり疼痛が生じることがあります。
筋肉には痛みの感覚需要器があるので、筋膜そのものを損傷した場合も疼痛が起こります。
特に、筋膜が癒着し、筋肉と筋膜が張り付くと、嫌な痛みが出てきます。
ぎっくり腰で歩けない理由を探ってみると、痛みは勿論のこと、もう一つ原因が見えてきます。
それは、「腰椎が身体をしっかり起こせない」ということです。
腰をかがめていないと、痛みを抱えているところ動かそうと思っても動きません。
僕の場合、両脚は動きますが、加減を間違えて動かすと腰に激痛が走りそうで、腰を伸ばすことができず、身体を起こした状態で十分に歩けないのです。
前回配信した【片麻痺者が動けないのはなぜ?番外編2】でのデモンストレーションでも示したように、平行棒に掴まって、右足を先に一歩前に出したら身体が自然と起き上がり、重心がまっすぐに腰に乗っかっていく…という動作が出来なかったのと同じです。
腰椎の伸展が制限されている」
今回ぎっくり腰になり、スパズム・疼痛が生じたことで腰椎の伸展が制限されてしまい、僕は歩けない状態になってしまいました。
腰を曲げてヨタヨタと歩く状況がここ数日間続いています…
97ページ ちゅんたご飯粒さんの例
「Let's ケーススタディ 脳卒中リハビリテーション」で詳細している症例を取り上げてみましょう。
ちゅんたさんの場合、脚を交互に足を動かすことはできますが、腰が後ろに抜けてしまっています。前に出している脚や膝をかがめて後ろに残したまま、「よいしょ、よいしょ」と一方ずつ歩かれています。
この原因は「痙縮」です。
筋の硬さです。
痙縮により、腰椎が伸びるタイミングが狂ってしまったがゆえに、タイミングよく腰が前に移動していかないので、脚は動くけれど、屈曲のまま進展しないで歩くのが大変というのを示した症例です。
片麻痺の方は、【片麻痺者が動けないのはなぜ?番外編2】で示したように、平行棒に掴まって脚を一歩前に振り出した時に、“腰を起こして前に送り出す動作ができない”ので、歩くのが困難だという方が非常に多いのです。
腰は起こせないけど脚はある程度動くので、一生懸命頑張って振り出すのですが、そうすると、内反尖足とクロウトゥが出てしまう…というのが前回の動画の主旨でした。
前述したように、問題は『痙縮・筋の硬さ』にあります。
大脳皮質からの出力イメージ
脳の大脳皮質からの運動指令(筋肉に対する出力)は「ピアノの鍵盤」に例えることができます。
ピアノの鍵盤ひとつ、ひとつに筋肉が付いていて、和音や色々なメロディーを弾くことができます。音楽は複数の音が同時に、調和が取れた状態で綺麗に鳴り響くものです。
鍵盤の色々なキーを同時に押すから、僕たちの身体は様々な筋肉がタイミングよく働いて、歩くための腰のスムーズな動きができるわけです。
ところが、どこかで筋肉が硬くなってしまったり、痛みが起こったりすると、この調和して働く機能が崩れます。
脳は「正常に動け」と運動命令の信号を出しますが、『痛みが起こるから動かしたくない』『ここの筋肉使っちゃ嫌だ』と、身体からフィードバックが返ってきます。
すると脳は本来とは違う、別の箇所に指令を出してしまい、それが「異常な運動連鎖」に繋がってしまいます。
本来であれば、前に出した脚の上に腰が乗っかっていくのが自然で、音楽の和音やハーモニーのように同時進行で起こるはずが、筋肉の硬さや痛み、バランスに対する恐怖感などがあると、このパターンが崩れてしまいます。
「異常な運動連鎖」が起こり、腰がずっと後に残ったまま、脚だけを一生懸命に降り出して歩こうとしていたのが97ページのちゅんたさんの症例です。
解決策は「伸展」ができる状態にすることです。
硬い筋を緩めるだけではダメ
多くの場合、痙縮が強ければ強いほど「筋肉を緩めましょう」という考えに向かいがちですが、これだけでは不十分です。
勿論、硬くなった筋を緩めるのも大切ですが、「きちんと使う」ことを学習した方が、痙縮は緩みやすいです。
痙縮は筋出力のパターンが崩れてしまった状態なので、このパターンを正常に戻してあげるアプローチを考えることが重要です。
そのためには、『筋の硬さに影響されないような瞬間・タイミング・運動パターンを、介入の中で探し出すテクニック』が必要になります。
これはなかなか厄介で難易度が高いです。
「ここだ!」っていう、ポイントを見つけられるかどうか療法士の勝負どころです。
当事者の身体に触っていると「凄く狭い範囲だけど、ここだったら痙縮に影響されないで動ける」という所が分かってきます。
或いは、動かすタイミングや声かけのタイミングでも良いし、こういう感覚でやってみてっていうヒントを与えるのでもいい。
色々な方法を試してみて、「ここだ!」っていう、ポイントを押さえられるようになると、痙縮があったとしても、さほど歩行に影響しないような硬さにまで緩んでくれます。
仮に、硬さは残っていたとしても、脚が前に送り出せるぐらいに、腰が前に移動できたりするケースもあります。
歩行練習は「形」の練習ではない
「ここだ!」というポイントを見出すのに、歩行練習を『形の練習』として捉えると確実に失敗します。
【片麻痺者が動けないのはなぜ?番外編2】で紹介した練習は、片麻痺者の殆どの方はできないかもしれません。動画で実践している内容を「マネする」のではなく、エッセンスを捉えるようにして下さい。
・筋の硬さが邪魔をしているなら
筋の硬さが邪魔にならないような誘導の方向やサポートの位置を考えてみる
・痙縮の背景に筋肉の弱さがあるなら
弱い筋肉や働きづらい筋肉にちょっと手を置いて触れる
すると、スーッと歩ける場合がある
・筋が硬くなり関節炎のような痛みがあるなら
まずはその痛みを取ってあげる
正常な運動要素
当事者それぞれの個別性に合致したポイントを抜き出し、適切な介入を繰り返して重ねていくと、ピアノの鍵盤キーの和音のように「正常な運動連鎖」のパターンが取り戻せるようになります。
脳卒中片麻痺の方は正常な運動要素を持ってはいるものの、末端の状態や筋の硬さ、恐怖心、感覚の乏しさなど、色々なことが背景にあるため、身体をうまく使いこなせない状況になっています。
これが歩きづらさの一つの原因になっています。
個人によって原因は色々
何度かお伝えしていますが、「歩きづらさ・動きづらさ」の背景に何が潜んでいるのか、お一人お一人で全く違います。
直接お身体を見せて頂かないと、分かりません。
30年以上の臨床経験を元に、推察でコメント返しやアドバイスをしていますが、当たるかどうかは保証できません。
コメント欄にもご質問やお困りの言葉を記載いただきますが、詳細が分からないままで、オンラインの短文でお答えするのは現実的には難しいです。
ご興味のある方は、一度お問合せ頂き、両国のウィルラボにお越し下さればと思います。
ZOOMでのオンラインリハビリにも対応しています。
まとめ
脳卒中片麻痺の方が「上手く歩けないからから、上手く歩く練習をする」のでは決してありません。
「ラクに上手に歩けない原因は色々な所にあり、それによって、異常な運動連鎖が生じている」というのを理解して下さい。
リハビリの際に、療法士が言葉で「かかとから着いてつま先に…」と言った所で、当事者の方には全く役に立ちません。ご本人が今どこでつまずいていて、それは何故なのかを適切に評価し、アプローチしていくことが不可欠です。
「僕が前回配信した内容と同じことをして下さい」というのではありません。
歩行練習の際に、良い方の脚にすっと重心が乗れる練習ができるような身体をの在り方を探ってみて下さいという提案です。
歩行練習を「形」の練習として捉えるのではなく、動画からアイディアのヒントや解決の糸口を探ってみて下さい。
動画内容・チャプター
1:00 前回の動画:歩行練習
1:57 異常な運動連鎖:片麻痺の方が歩きづらい
2:25 Let's ケーススタディ 97ページ
3:13 2026年2月4日 ぎっくり腰になる
4:04 筋筋膜症状
4:45 突然起こるのがぎっくり腰
5:15 炎症症状は動いて治すのが主流に
7:06 痛みと歩行困難
7:46 スパズム
8:30 痛みで腰椎が身体をしっかり起こせない
9:45 ケーススタディ症例
10:24 痙縮が原因→腰椎が伸びるタイミングが狂う
11:45 大脳皮質からの出力イメージ(ピアノの鍵盤)
13:10 異常な運動連鎖
13:56 やるべきことは伸展活動
14:19 痙縮は硬さを緩めるのではなく筋を使う
15:47 歩行練習を「形」の練習として捉えるのはダメ
16:46 正常な運動要素はあるが使いこなせていない
17:20 個人差がある・YouTubeのコメント返しは限界
18:51 本来の療法士の役目
20:00 歩けない理由を探る